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「平家物語」首渡(その3)

今度平氏の首大路おほちを渡されざらんにおいては、自今じこん以後なんの勇みあつてか凶徒きようとを退けんや」と、しきりにうつたまうされければ、法皇ほふわう力及ばせ給はず、つひに渡されけり。見る人幾千万いくせんばんと言ふ数を知らず。帝闕ていけつに袖を連ねしいにしへは、怖ぢ恐るるともがらおほかりき。ちまたにかうべを渡さるる今は、またあはれみ悲しまずと言ふことなし。中にも大覚だいかく寺に隠れ給へる、小松の三位中将維盛これもりきやうの若君、六代御前につき奉りける斎藤五、斎藤六、あまりのおぼつかなさに、様をやつして見ければ、御首どもは、皆知り奉りたれども、三位中将殿の御首は見え給はず。されどもあまりの悲しさに、包むに堪へぬ涙のみ茂かりければ、余所の人目も恐ろしくて、急ぎ大覚寺へぞかへまゐりける。北の方、「さていかにやいかに」と問ひ給へば、「人々の御首どもは、皆見知り奉たれども、三位中将殿の御首は、見えさせ給ひさふらはず。




今平氏の首を大路に渡されないのでしたら、今後どうして勇気を持って凶徒([悪行を働く者])を退治できましょうか」と、何度も訴えを申したので、後白河院も仕方ないと思って、平家の首を大路に渡されました。見る人多く数えることもできないほどでした。平家の者たちが宮中に袖を並べた昔は、平家をおびえ恐れる者も多かったのでした。世間に首を晒される今となっては、憐れみ悲しまれるのは言うまでもありませんでした。中でも大覚寺に隠れ住む、小松三位中将維盛卿(平維盛)の若君、六代御前に仕える斎藤五、斎藤六は、あまりに心配になって、姿を変えて見にいくと、首は、皆知った者でしたが、三位中将殿(維盛)の首はありませんでした。けれどもあまりにも悲しくて、袖に包めないほど涙があふれ出て、他人の目も不安になったので、急いで大覚寺へ帰ってきました。維盛の北の方(妻)は、「どうでしたか維盛はいましたか」と聞きました、斎藤たちは、「首は、皆知った者でしたが、維盛の首は、ありませんでした。


続く


by santalab | 2013-07-11 06:56 | 平家物語

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