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「平家物語」勝浦(その2)

むまの足立ち、鞍爪くらづめ浸るほどにもなりしかば、ひたひたとうち乗つて、判官五じふ余騎、をめいて先を駆け給へば、渚にひかへたりける百騎ばかりのつはものども、しばしも堪らず、二ちやうばかりざつと引いて控へたり。判官渚に上がり、人馬の息休めておはしけるが、伊勢三郎義盛よしもりを召して、「あの勢の中に、さりぬべき者あらば、一人いちにん具してまゐれ。たづぬべきことあり」とのたまへば、義盛畏まりうけたまはつて、百騎ばかりの勢の中へ、ただ一騎駆け入つて、何とか言ひたりけん、歳のよはひ四十ばかんなるをのこの、黒革威くろかはをどしの鎧着たるを、兜を脱がせ、弓のつるはづさせ、降人かうにんに具して参りたり。判官、「あれは何者ぞ」とのたまへば、「当国たうごく住人ぢうにん坂西ばんざいの近藤六親家ちかいへ」と名乗り申す。判官、「たとひ何家なにいへにてもあらばあれ、しやつに目離すな。物の具な脱がせそ。やがて屋島への案内者に具せんずるぞ。逃げて行かば射殺せ、者ども」とぞ下知げぢし給ひける。




馬の脚がつき、鞍爪([鞍橋くらぼねの前後の高くなった部分])が浸るほどになると、馬に乗り、判官(源義経)が五騎余りで、大声上げて前を駆けると、渚で待ち受けていた百騎ばかりの平家の兵たちは、しばらくも防ぐことができずに、二町(約200m)ほど兵を引きました。判官(義経)は渚に上がり、人馬を休ませていましたが、伊勢三郎義盛を呼んで、「あの勢の中に、適当な者がいれば、一人連れて参れ。聞きたいことがある」と申すと、義盛は畏まり承って、百騎ほおの勢の中へ、ただ一騎駆け入り、何と言って連れてきたのか、年は四十ばかりの男で、黒革威([藍で濃く染めた黒革で威したもの])の鎧を着た者の、兜を脱がせ、弓の弦を外させ、降人にして連れて来ました。判官が、「何者か」と訊ねると、降人は当国の住人で坂西の近藤六親家(近藤親家。藤原師光もろみつ=西光の六男)だ」と名乗りました。判官は、「たとえどこの家の者だろうが、やつから目を離すな。物の具([太刀])を外させよ。すぐに屋島の案内者として連れて行く。逃げるようなら射殺せ、者どもよ」と下知([命令])しました。


続く


by santalab | 2013-10-17 06:47 | 平家物語

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