さる程に定景はかの御首を持ちて帰り、すなはち義村、右京の大夫の御廷に持参す。亭主出で会ひてその御首を見らる。安東の次郎忠家紙燭をいなたばり、ここに式部の大夫申されけるは、「まさしく未だ阿闍梨の面を見奉らず。なほ御首に疑ひあり」とぞ申しける。
定景(長尾定景)が公暁(二代将軍源頼家の子)の首を持って帰り、すぐに義村(三浦義村)は、右京大夫(北条義時)の許([廷]=[裁判を行う所])に持参しました。亭主(北条義時)が出て来て首を見ました。安東次郎忠家(安藤忠家)が紙燭([室内用の照明具])を手に持ちました、式部大夫(北条泰時。北条義時の長男)が申すには、「わたしはいまだかつて阿闍梨(公暁)の顔を見たことがない。首が本当のものかどうかわからない」と申しました。
(続く)