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「平家物語」赦文(その3)

怨霊をんりやうは、昔もかく恐ろしかりしことどもなり。冷泉院れんぜいゐんの御物苦はしうましまし、花山くわざん法皇ほふわうの、十善じふぜん帝位ていゐをすべらせ給ひしは、元方もとかたの民部きやうが霊なり。また三条さんでうの院の御目も御覧ぜられざりしは、桓算供奉くわんざんくぶが霊とかや。門脇の宰相さいしやう、かやうのことどもを伝へ聞き給ひて、小松殿にまうされけるは、「今度中宮ちうぐう御産の御祈り、様々にさふらふなり。何と申すとも、非常ひじやうの赦に過ぎたるほどのことあるべしとも思え候はず。中にも鬼界が島の流人どもを、召しかへされたらんほどの功徳善根、何事か候ふべき」と申されたりければ、父の禅門の御まへにおはして、「あの丹波の少将せうしやうがことを、門脇の宰相あまりに嘆き申すが不憫に候ふ。ことさら中宮御なうの御事、うけたまはり及ぶごとくんば、成親なりちかきやう死霊しりやうなど聞こえて候ふ。大納言が死霊をなだめんと思し召さんにつけては、生きて候ふ少将を、召しこそ帰され候はめ。人の思ひをやめさせ給はば、思し召すことも叶ひ、人の願ひを叶へさせましまさば、御ぐわんもすなはち成就じやうじゆして、御産平安皇子わうじ誕生たんじやうあつて、家門の栄華えいぐわいよいよ盛んに候ふべし」など申されければ、入道相国にふだうしやうこく、日頃よりことのほかにやはらいで、「さて俊寛しゆんくわん康頼やすより法師ぼふしがことはいかに」とのたまへば、「それも同じうは召しこそ帰され候はめ。




怨霊は、昔より恐ろしいものでした。冷泉院が苦しまれて、花山法皇に、十善([十善万乗]=[天子の位])の帝位を譲ったのは、元方の民部卿(藤原元方)の悪霊の仕業でした。また三条院の目が見えなくなったのは、桓算供奉(藤原元方とともに藤原師輔もろすけに恨みを抱いて怨霊となったそうな。[供奉]=[内供奉=[宮中の内道場に奉仕し、御斎会の読師や天皇の加持、祈祷などを勤めた僧職])の霊だといわれました。門脇宰相(平教盛のりもり。清盛の弟)は、これを伝え聞いて、小松殿(平重盛しげもり。清盛の嫡男)に申すには、「今度中宮(高倉天皇中宮、平徳子とくこ。後の建礼門院。清盛の娘)御産の祈りを、様々に行うべきです。ですが何と言っても、特別な恩赦に優るものがあるとは思えません。中でも鬼界が島の流人たちを、都に帰されるほどの功徳([現世、来世に幸福をもたらすもとになる善行])善根([よい報いを招くもとになる行為])を、なされてはどうでしょうか」と申したので、重盛は父である禅門(清盛)の御前に参って、「あの丹波少将(藤原なりつねのことを、門脇宰相(教盛)があまりに嘆き悲しんでいるのが不憫に思えるのです(成経は教盛の娘婿でした)。さらに中宮(徳子)が苦しんでいるとのことを、聞き及んでおりますが、成親卿(藤原成親)の死霊のせいではないかと噂されています。大納言(重盛)が死霊を鎮めようとするならば、生きている少将(成経)を京に帰しなさい。人の悲しみをなくせば、思うことも叶い、人の願いを叶えてあげれば、願いもすぐに成し遂げられ、中宮の御産も心配なく皇子が誕生して、平家の栄華はますます繁栄するに違いありません」などと申せば、入道相国(清盛)は、いつもになくおだやかな表情をして、「ならば俊寛や康頼(平康頼)はどうすればよいのじゃ」と言うと、重盛は、「彼らも同じように帰されるのがよろしいでしょう。


続く


by santalab | 2013-10-28 23:12 | 平家物語

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