Santa Lab's Blog


「平家物語」有王(その3)

あるあした磯の方より、蜻蛉かげろふなんどのごとくに痩せ衰へたる者、蹌踉よろぼひ出で来たり。もとは法師ほふしにてありけりと思えて、髪は空様に生ひ上がり、よろづの藻屑もくづ取り付けて、おどろをいただいたるがごとし。継ぎ目現はれてかはゆたひ、身に着たるものは、絹、布の分きも見えず。片手には荒布あらめを持ち、片手にはうをを貰うて持ち、歩むやうにはしけれども、はかも行かず、よろよろとしてぞ出で来たる。都にておほくの乞丐こつがい人は見しかども、かかる者はいまだ見ず。「諸阿修羅等しよあしゆらとう居在大海辺こざいだいかいへん」とて、修羅の三悪四趣さんあくししゆは、深山しんざん大海だいかいのほとりにありと、仏の説き置き給ひたれば、知らず、我餓鬼だうなどへ迷ひ来たるかとぞ思えたる。はやかれもこれもしだいに歩み近づく。もしかやうの者にても、我が主の御行方ゆくへや知つたると、「物まうさう」と言へば、「何事」と答ふ。




ある朝磯の方より、蜻蛉([とんぼ])のように痩せこけた者が、よろめきながら歩いてきました。もとは法師であるように見えて、髪は天に向かって生え、様々な藻屑を頭に付けて、まるで草木を頭にのせたようでした。やせ衰えて関節があらわになり皮膚は垂れ下がって、身に付けたものは、絹とも、布とも見分けがつきませんでした。片手に荒目(海草)を持ち、片手には貰った魚を持ち、歩むようではありましたが、思うように行かず、よろよろとしていました。有王は都で多くの>乞丐人([乞食])を見ましたが、これほど異様な者は見たことがありませんでした。「阿修羅([不思議な力を備えていた神々の称])たちは、大海のほとりにおられる」といって、修羅の三悪([地獄・餓鬼・畜生])四趣([地獄・餓鬼・畜生・修羅])は、深山大海のほとりにあると、仏([仏陀])が説いていることを思うと、有王は知らず知らずのうちに、餓鬼道([常に飢えと渇きに苦しむ亡者の世界])に迷い込んだのかと思いました。痩せこけた者が有王に近付いて来ました。有王はもしかしたらこのような者でも、我が主俊寛の行方を知っているかもと思って、「お訊ねします」と言うと、「なんだ」と答えました。


続く


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by santalab | 2013-10-30 07:50 | 平家物語 | Comments(1)
Commented by 春日 at 2014-04-24 21:17 x
すみません、日本語の起源、言霊百神というサイトをごぞんじですか?

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