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「平家物語」那須与一(その5)

これを射損ずるものならば、弓切りり自害して、人に再び面を向かふべからず。今一度本国へかへさんと思し召さば、この矢はづさせ給ふな」と、心の内に祈念して、目を見開いたれば、風も少し吹き弱つて、あふぎも射よげにこそなつたりけれ。与一かぶらを取つて継がひ、よついてひやうど放つ。小兵こひやうと言ふでう、じふ二束三伏みつぶせ、弓は強し、鏑はうら響くほどに長鳴りして、あやまたず扇のかなめぎは、一寸ばかりおいて、ひいふつとぞ射切つたる。鏑は海へ入りければ、扇は空へぞ上がりける。春風に一揉み二揉み揉まれて、海へさつとぞ散つたりける。皆紅みなぐれなゐの扇の、夕日ゆふひかかやくに、白波のうへに漂ひ、浮きぬしづみぬ揺られけるを、沖には平家船端ふなばたを叩いて感じたり。くがには源氏えびらを叩いて、どよめきけり。




扇を射損じたら、弓を折り自害して、人に再び顔を見せることはできまい。もう一度本国(下野国)に帰そうと思うのならば、この矢を外させるな」と、心の内で祈ってから、目を開けば、風も少し吹き弱まって、扇も射やすくなっていました。与一(那須与一)は鏑矢([鏑と呼ぶ音響装置を付けた矢])を取って弓に継ぎ、よく引いてから矢を射ました。体は小さいといえども、十二束三伏せ([こぶし十二握りの幅に指三本の幅を加えた長さ]=[矢の長さ])の、弓の威力は強く、鏑矢は長く鳴り響いて、扇を外すことなく要際(扇を束ねた所)の、一寸(約3cm)ばかりのところを、射切りました。鏑矢は海に落ちて、扇は空に舞い上がりました。扇は春風に一度二度揺られて、海に散りました。皆紅の扇([すべて紅色])の扇が、夕日に輝いて、白波の上に漂い、浮くでもなく沈むでもなく波に揺られていました。沖では平家の兵たちが船端を叩きながら感動していました。陸では源氏の兵たちが箙([矢を入れる武具])を叩いて、どよめきました。


続く


by santalab | 2013-11-01 07:18 | 平家物語

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