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「平家物語」弓流(その4)

うつ伏し、鞭を以つて掻き寄せ、取らん取らんとし給へば、御方のつはものども、「ただ捨てさせ給へ捨てさせ給へ」とまうしけれども、つひに取つて、笑うてぞかへられける。大人どもは、皆爪弾きをして、「たとひ千びき万疋に、代へさせ給ふべき御だらしなりと申すとも、いかでか御命には、代へさせ給ふべきか」と申しければ、判官、「弓のしさにも、取らばこそ。義経が弓と言はば、二人ににんしても張り、もしは三人しても張り、叔父をぢ為朝ためともなどが弓のやうならば、わざとも落といて取らすべし。わうじやくたる弓を、かたきの取り持つて、これこそ源氏の大将軍たいしやうぐん、九郎義経が弓よなど、嘲弄てうろうぜられんが口しさに、命に代へて取つたるぞかし」とのたまへば、皆またこれをぞ感じける。




判官(源義経)は馬に腹ばいになり、鞭で弓を掻き寄せて、弓を取ろうとしました、味方の兵たちは「弓など捨て置きなさいませ」と言いましたが、判官は遂に弓を拾い上げて、笑って陣に戻りました。大人([一人前の男])たちは、皆爪弾き([嫌悪・軽蔑・非難などの気持ちを表すしぐさ])をして、判官に「たとえ千疋(疋は銭を数える単位。一疋=十文)万疋に、代わるような弓([とらしの変化。貴人の持つ弓])と申すとも、命に代わるものではございません」と申すと、判官(源義経)は、「弓が惜しくて、取ったのではない。もしわたし義経の弓が、二人して張り、もしくは三人で張り、叔父である為朝(源為朝。源為義の八男で弓の名手)の弓のようであったなら、わざと落として敵に取らせたであろう。このように弱々しい弓を、敵が取って、これが源氏の大将軍、九郎義経の弓だとと、嘲弄([あざけり、からかうこと])されるのがいやで、命に代えて取ったのだ」と申すと、皆感心したのでした。


続く


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by santalab | 2013-11-05 07:22 | 平家物語 | Comments(0)

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