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「増鏡」新島守(その16)

あづまにも、いみじうあわて騒ぐ。「さるべくて身の失すべき時にこそあんなれ」と思ふものから、「討手うつての攻め来たりなん時に、はかなき様にてかばねを晒さじ、おほやけと聞こゆとも、身づからし給ふ事ならねば、かつ我が身の宿世しゆくせをも見るばかり」と思ひなりて、弟の時房ときふさ泰時やすときと言ふ一男と、二人をかしらとして、雲霞のつはものをたなびかせて、都に上す。泰時をまへに据ゑて言ふやう、 「おのれをこの度都にまゐらする事は、思ふところおほし。本意の如く清き死をすべし。人に後ろを見えなんには、親のかほ、また見るべからず。今を限りと思へ。賎しけれども、義時よしとき、君の御ために後ろめたき心やはある。されば、横ざまの死をせん事はあるべからず。心を猛く思へ。おのれうち勝つものならば、再びこの足柄・箱根山は越ゆべし」など、泣く泣く言ひ聞かす。「まことにしかなり。また親の顔をがむ事もいと危うし」と思ひて、泰時もよろひの袖を絞る。肩身に今や限りにあはれに心細げなり。




東国でも、大騒ぎでございました。「なるべきして身を失する時であったのであろう」と思う者もあれば、「討手が攻めて来ても、はかなく屍を晒すものではない、たとえ敵が公であっても、身に覚えのないことならば、我が身の宿世([前世からの因縁])と思う外ない」と思って、北条義時(鎌倉幕府第二代執権)は弟の時房(北条時房)と嫡男泰時(泰時)と申す二人を先頭に、雲霞の如くの兵たちを引き連れて、都に上らせたのでございます。義時は泰時を御前にすわらせて申すには、「お前をこの度都に上せるにあたり、申しておくことが多くある。本意に従って清く死ぬべきぞ。人に背中を見せることあれば、親の顔を、再び見ることはないと思え。今を限りと戦え。身分は賎しくとも、わし義時も本当のところ、お前を上らせたくはないのだ。だから、せめて無様な死に様はするな。心を強く持て。己に打ち勝つことができたなら、再びこの足柄山(神奈川・静岡県境にある足柄峠を中心とする山地)・箱根山(神奈川・静岡両県にまたがる火山)を越えることができよう」などと、泣く泣く言い聞かせたのでございます。「もっともなことだ。再び親の顔を拝むことも叶わぬかも知れない」と思って、泰時も鎧の袖を絞りました。今を限りと思えば悲しくて心細く思われたのでございましょう。


続く


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by santalab | 2013-11-05 08:41 | 増鏡 | Comments(0)

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