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「平家物語」木曽山門牒状(その4)

秋の風の芭蕉ばせをを破るに異ならず。冬の霜の群葉くんいうを枯らすにあひ同じ。これひとへに神明仏陀の助けなり。さらに義仲が武略にあらず。平氏敗北のうへは、参洛さんらくくはだつるなり。今叡岳えいがくの麓を過ぎて、洛陽らくやうちまたに入るべし。この時に当たつて、密かに疑殆ぎたいあり。そもそも天台の衆徒しゆとは、平氏に同心か、源氏に依りきか。もしかの悪徒を助けらるべくは、衆徒に向かつて合戦すべし。もし合戦をいたさば、叡岳の滅亡めつばうくびすめぐらすべからず。悲しいかな、平氏宸襟しんきんを悩まし、仏法ぶつぽふを滅ぼすあひだ、悪逆をしづめんがために、義兵を起こすところに、たちまちに三千の衆徒に向かつて、不慮の合戦をいたさんことを。いたましきかな、医王いわう山王さんわうに憚り奉て、行程かうてい遅留ちりうせしめば、朝廷てうてい緩怠くわんたいしんとして、永く武略瑕瑾かきんそしりを残さんことを。進退しんだいまどつて、かねて案内をけいするところなり。請ひ願はくは天台の衆徒、神のため仏のため国のため君のために、源氏に同心して、凶徒をちうし、鴻化こうくわよくせん。懇丹こんたんの至りに堪へず。義仲恐惶きようくわう慎んでまうす。寿永じゆえい二年六ぐわつ十日とをかの日、源の義仲進上しんじやう恵光坊ゑくわうばうの律師の御房おんばうへ」とぞ書かれたる。




平家を滅ぼすことなど秋風が芭蕉([バショウ科の多年草])の葉を破るようなものです。冬の霜が群葉([枝にむらがってついている多くの葉])を枯らすのと同じこと。これはただただ神明([神])仏陀([仏])の助けによるものです。申すまでもなくわたし義仲(木曽義仲)の武略によるものではありません。平家を破った上は、参洛([京に上ること])することを考えています。今にも叡岳(比叡山)の麓を過ぎて、洛陽(京)の市中に入ります。この今、密かに疑殆([疑い危ぶむこと])することがあります。そもそも天台宗の衆徒([僧])たちは、平家に同心するのか、源氏に味方するのかということです。もし悪徒(平家)を助けるのであれば、わたしは衆徒に向かって合戦するでしょう。もし合戦すれば、叡岳の滅亡はまたたく間です。悲しいことです、平氏が宸襟([天子の心])を悩ませ、仏法を滅ぼそうとしているので、悪逆(平家)の兵を平定するために、義兵([正義のために起こす兵])を起こそうとしているところに、たちまち三千の衆徒に向かって、不慮([意外])の合戦をすることになれば。いたましいことです、医王(薬師如来。延暦寺東塔=本堂の秘仏。最澄自作の伝承がある)山王(滋賀県大津市にある日吉大社の祭神)に憚って、参洛を遅留することは、朝廷に緩怠([無礼を働くこと])した臣として、永く武略瑕瑾([恥])の誹りを残すことになります。参洛に迷い、前もって案内([意向])を申し上げます。請い願わくは天台宗(比叡山)の衆徒よ、神のため仏のため国のため君([天皇])のために、源氏に味方して、凶徒(平家)を倒し、鴻化([天子の広大な教化・恵み])に与かろうではありませんか。懇丹([まごころを尽くして願うこと])の至りに堪えることができません。義仲が恐惶([恐れ畏まること])慎んで申し上げます。寿永二年(1183)六月十日、源義仲が進上。恵光坊の律師(澄豪ちようごう。がすでに故人)の御房(弟子)へ」と書いてありました。


続く


by santalab | 2013-11-14 11:57 | 平家物語

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