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「平家物語」主上都落(その7)

漢天かんてんすでに開けて、雲東嶺とうれいにたなびき、明け方の月白く冴えて、鶏鳴けいめいまた忙はし。夢にだにかかることは見ず。一年ひととせ都移りとて、にはかに慌たたしかりしは、かかるべかりける前表ぜんべうとも、今こそ思ひ知られけれ。摂政せつしやう殿も行幸ぎやうがう供奉ぐぶして、御出ぎよしゆつありけるが、七条しちでう大宮おほみやにて、角髪びんづら結うたる童子の、御車のまへを、つと走りとほるを御覧ずれば、かの童子のひだんたもとに、春の日と言ふ文字ぞ表はれたる。春の日と書いては、春日かすがと読めば、法相ほつさう擁護の春日大明神だいみやうじん大織冠たいしよくくわんの御すゑを守り給ふにこそと、頼もしう思し召すところに、くだんの童子のこゑと思しくて、

いかにせむ 藤の末葉の 枯れゆくを ただ春の日に 任せたらなむ




漢天([天の川のかかって見える空])はすでに明けて、雲は東嶺([京都東山])にたなびき、明け方の月(有明の月)は白くくっきりと見え、鶏鳴([鶏の鳴き声])も忙しそうでした。夢にさえもかつて見たことがありませんでした。一年間都が福原に移って、急に慌ただしくなったのは、この前兆だったと、今になって思い知らされたのでした。摂政殿(近衛基通もとみち、平清盛の子である完子さだこの夫で安徳天皇の摂政)も行幸([天皇が外出すること])のお供に付いて、出かけましたが、七条大宮(今の京都市下京区)で、髪を結った男の子が、車の前を、つっと走り横切るのをご覧になれば、男の子の左の袂に、春の日と言う文字が見えました。春の日と書いて、春日と読めば、法相([万象])擁護([衆生の祈願に応じて、仏や菩薩(が守り助けること])の春日大明神(春日大社の四神。天児屋命あめのこやねのみこと武甕槌命たけみかづちのみこと経津主命ふつぬしのみこと比売神ひめがみ)となり、大織冠([臣下に授けられた最高の冠、官位]。藤原鎌足のこと)の子孫を守ってほしいと、基通が頼みに思っていると、さきほどの男の子の声で歌が聞こえました、

どうすればよいのでしょうか、ふぢの下の葉が枯れていくのを、ただ春の光にゆだねるだけなのでしょうか(いいえそうではありませんよ。[藤の末葉]=[藤原氏の子孫]が絶えていくのを憂うのならば、ひたすら春日大明神を頼りなさい)。


続く


by santalab | 2013-11-15 08:58 | 平家物語

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