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「平家物語」宇治川先陣(その5)

かたきも御方もこれを聞いて、一度にどつとぞ笑ひける。その後畠山乗り替へに乗つて、をめいて駆く。ここに魚陵ぎよりよう直垂ひたたれに、緋威ひをどしよろひ着て、連銭葦毛れんぜんあしげなるむまに、金覆輪きんぷくりんの鞍を置いて、乗つたりける武者むしや一騎、真つ先に進んだるを、畠山、「ここに駆くるはいかなる者ぞ、名乗れや」と言ひければ、「これは木曽殿のいへの子に、長瀬の判官代重綱しげつな」と名乗る。畠山、今日けふ戦神いくさがみいははんとて、押し並べてむずと組んで引き落とし、我が乗つたりける鞍の前輪まへわに押し付け、ちつとも働かさず、首捻じ切つて、本田の次郎じらうが鞍のとつつけにこそ付けさせけれ。これを始めて、宇治橋固めたりけるつはものども、しばし支へて防ぎ戦ふと言へども、東国の大勢おほぜい皆渡いて攻めければ、力及ばず、木幡山こはたやま、伏見を指してぞ落ち行きける。瀬田をば稲毛の三郎さぶらう重成しげなりが計らひにて、田上たなかみ供御ぐごの瀬をこそ渡しけれ。




敵も味方もこれを聞いて、いっせいにどっと笑いました。その後畠山(重忠しげただ)は乗り替へ([予備の馬])に乗って、叫び声を上げながら駆けて行きました。すると魚陵([上質の唐綾])の直垂([鎧の下に着る着物])に、緋威([緋色に染めた革や組み紐などで威した鎧])の鎧を着て、連銭葦毛([葦毛に灰色の丸い斑点のまじっているもの])の馬に、金覆輪([金または金色の金属で装飾したもの])の鞍を置いて、乗った武者が一騎、先頭で進んで来ました、畠山(重忠)は、「駆けて来るのだ誰だ、名乗れや」と言うと、「わたしは木曽殿(義仲)の家の子([一族])で、長瀬判官代重綱(長瀬重綱)と名乗りました。畠山(重忠)は、今日の戦神に捧げようと、馬を押し並べて長瀬重綱を馬から引き落とし、畠山が乗った馬の鞍の前輪([鞍橋くらぼねの前部の山形に高くなっている部分])に押し付け、わずかも動けないようにして、首をねじり切り、本田次郎(近常ちかつね)の鞍の取付([鞍の後輪しづわ四方手しほで=金輪。に付ける紐])に首を繋がせました。これをはじめて、宇治橋を固めていた兵たちは、しばらく守って敵を防ぎ戦いましたが、東国(頼朝軍)の大勢が皆川を渡って攻めて来たので、防ぎようもなく、木幡山(京都市伏見区の山)、伏見(今の京都市伏見区)に向かって落ちて行きました。瀬田川は稲毛三郎重成(稲毛重成)の指示により、田上(今の滋賀県大津市南部の地名)の供御の瀬を渡しました。


続く


by santalab | 2013-11-18 07:12 | 平家物語

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