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「平家物語」一二之懸(その3)

ややあつて後ろより武者こそ二騎続いたれ。「そ」と問へば、「季重すゑしげ」と答ふ。「問ふは誰そ」。「直実なほざねぞかし」。「いかに熊谷殿はいつよりぞ」。「よひより」とこそ答へけれ。「季重もやがて続いて寄すべかりつるを、成田なりだ五郎ごらうたばかられて、今までは遅々したりつるなり。成田が死なば一所で死なんと契りしあひだ、打ち連れて寄せつれば、『いたう平山殿先駆けばやりなし給ひそ。いくさの先を駆くると言ふは、御方の勢を後ろに置いて、先を駆けたればこそ、高名かうみやう深くをも人に知らるれ。あの大勢おほぜいの中へただ一騎、駆け入つて討たれたらんは、何の詮にか遭ふべき』と言ふ間、げにもと思ひ、小坂のありつるを打ち上せ、下り様にむまかしらを引き立てて、御方の勢を待つところに、成田も続いて出で来たり、打ち並べて戦のやうをも言ひ合はせんずるかと思ひたれば、さはなくして、季重が方をば素気すげなげに見なしつつ、そばをつと馳せとほあひだ、あつぱれこの者季重謀つて、先駆くるよと思ひ、五六反ばかり進んだるを、あれがむまは我が馬より弱げなるものをと目を掛け、一鞭打つて追つ付き、『いかに成田殿は、まさなうも季重ほどの者を、謀り給ふものかな』と言ひ掛け、打ち捨てて寄せつれば、今は遥かに下がりぬらん。よも後ろ影をば見たらじ」とこそ語りけれ。




しばらくして後ろから武者が二騎続いてやって来ました。熊谷(熊谷直実なほざね)が「誰だ」と訊ねると、「季重(平山季重)だ」と答えました。季重は「訊ねるのは誰だ」と聞きました。熊谷(直実)は「直実だ」と答えました。季重が「そうと熊谷殿(直実)はいつ来た」と訊ねました。直実は「夜から」と答えました。季重は「わたし季重もすぐに続いて寄せようと思っていたが、成田五郎に騙されて、今まで遅くなってしまったのだ。成田が死ぬならば一所で死のうと言ったので、引き連れて寄せたが、『平山殿(季重)先駆けを焦るでない。戦の先陣を駆けると言うのは、味方の勢を後ろに付けて、先を駆けてこそ、高名を深く人が知るのだ。あの大勢の敵の中にただ一騎、駆け入って討たれたら、何にもならないではないか』と言ったので、たしかにと思い、小坂があったので上った所で、下りに馬の頭を向けて、味方の勢を待っていると、成田(五郎)が続いてやって来たのだ。馬を並べて戦の相談をするものと思っていたが、そうではなくて、わたし季重の方をそっけなく見て、そばをさっと馳せ通って行った、成田(五郎)がわたし季重を騙して、先駆けしようとしていると思い、五六反(約50~60m)ばかり先に進んだところを、成田(五郎)の馬はわたしの馬より弱そうだと見て、一鞭打って追い付き、『成田殿(五郎)は、わたし季重ほどの者を、よくも騙したな』と言い掛けて、振り捨ててここまで寄せて来たのだ、今は遥か後ろを駆けているだろう。後ろ姿さえ見えない」と言いました。


続く


by santalab | 2013-11-18 18:07 | 平家物語

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