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「平家物語」一二之懸(その7)

越中ゑつちう次郎じらう兵衛びやうゑこれを見て、敵はじとや思ひけん、取つてかへす。熊谷、「あれはいかに、越中の次郎兵衛とこそ見れ。かたきにはどこを嫌はうぞ。押し並べて組めや組め」と言ひけれども、次郎兵衛、「さもさうず」とて引つ返す。上総かづさの悪七兵衛これを見て、「きたない殿ばらの振る舞ひかな。しや組まんずるものを。落ち合はぬことはよもあらじ」とて、すでに駆け出で組まんとしければ、次郎兵衛、悪七兵衛がよろひの袖を控へて、「君の御大事これに限るべからず。あるべうもなし」と制せられて、力及ばで組まざりけり。その後熊谷は乗りへに乗つてをめいて駆く。平山も熊谷親子が戦ふ間に、むまの息休め、これも同じう続いたり。平家の方にはこれを見て、ただ射捕れや射捕れとて、差し詰め引き詰め、散々に射けれども、敵は小勢なり、御方は大勢おほぜいなりければ、勢に紛れて矢にも当たらず。「ただ押し並べて組めや組め」と下知げぢしけれども、平家の方の馬は飼ふは稀なり、乗り繁し。船に久しう立てたりければ、皆り切つたるやうなりけり。熊谷平山が乗つたる馬は、飼ひに飼うたる大の馬どもなり。一当て当てば、皆蹴たふされぬべきあひだ、さすが押し並べて組む武者一騎もなかりけり。




越中次郎兵衛(平盛継もりつぐ)はこれを見て、敵わないと思ったのか、馬を返しました。熊谷(直実なほざね)は、「どういうことか、越中次郎兵衛(盛継)は。敵を嫌ってどうするのだ。馬を並べて戦えや」と言いましたが、次郎兵衛は、「戦わぬ」と言って引き返しました。上総の悪七兵衛(藤原景清かげきよ)はこれを見て、「卑怯な振る舞いぞ。わたしが組んでやろう。戦わずはいられない」と言って、駆け出そうとしましたが、次郎兵衛(盛継)が、悪七兵衛(藤原景清)の袖を引っ張って、「君(景清)の大事はここではありません。ここは戦うところではありません」と制止されたので、仕方なく戦いませんでした。その後熊谷(直実)は乗り替えの馬に乗り替えて喚いて駆けて来ました。平山(季重すゑしげ)も熊谷親子(直実と直家なほいへ)が戦っている間に、馬の息を休めていましたが、同じく後に続きました。平家はこれを見て、射捕れ射捕れと、差し詰め引き詰めひっきりなしに矢を射ました、けれど敵は小勢で、味方は大勢でしたので、勢に紛れて矢は当たりませんでした。「馬を並べて組め」と下知([命令])しましたが、平家方の馬で休んでいたものはわずかで、乗り疲れていました。船に長く立てられていたので、酒に酔ったようでした。他方熊谷(直実)平山(季重)が乗っていた馬は、十分に休めた大きな馬でした。一当てでも当たると皆蹴倒されると思い、さすがに馬を並べて組む武者は一騎もいませんでした。


続く


by santalab | 2013-11-18 18:21 | 平家物語

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