ここに平山は、身に代へて思ひける旗差を討たせて、安からずや思ひけん、城の内へ駆け入り、やがてその敵が首捕つてぞ出でたりける。熊谷親子も、分捕り数多してげり。熊谷は先に寄せたれども、木戸を開かねば駆け入らず。平山は後に寄せたれども、木戸を開けたれば駆け入りぬ。さてこそ熊谷平山が、一二の駆けをば争ひけれ。
ここで平山(平山季重)は、身に代えてもと思っていた旗差([戦場で、主人の旗を持って供奉する武士])が討たれたので、腹を立てて、城の中へ駆け入り、すぐに敵の首を捕って出て来ました。熊谷親子(直実と直家)も、分捕り([戦場で敵の武器や軍用品、または首などを奪い取ること])数多くしました。熊谷(直実)は先に寄せましたが、木戸が開かず駆け入ることができませんでした。平山(季重)は後に寄せましたが、木戸が開いたので駆け入りました。つまるところ熊谷(直実)平山(季重)が、一二の駆けを争ったということです。
(続く)