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「平家物語」敦盛最期(その2)

我が子の小次郎こじらうよはひほどして、十六七じふろくしちばかんなるが、容顔ようがんまことに美麗びれいなり。「そもそもいかなる人にて渡らせ給ひさふらふやらん。名乗らせ給へ。助けまゐらせん」とまうしければ、「先づかう言ふ和殿わとのそ」。「ものその数にては候はねども、武蔵の国の住人、熊谷の次郎じらう直実なほざね」と名乗り申す。「さてはなんぢがためにはよいかたきぞ。名乗らずとも首を取つて人に問へ。見知らうずるぞ」とぞのたまひける。熊谷、「あつぱれ大将軍たいしやうぐんや。この人一人いちにん討ち奉たりとも、負くべきいくさに勝つべきやうなし。また助け奉たりとも、勝ち戦に負くることも世もあらじ。今朝けさ一の谷にて、我が子の小次郎が薄手うすで負うたるをだにも、直実は心苦しく思ふに、この殿、討たれ給ひぬと聞き給ひて、さこそは嘆き悲しみ給はんずらめ。助け参らせん」とて、後ろをかへり見たりければ、、梶原五十ごじつ騎ばかりで出で来たる。熊谷涙をはらはらと流いて、「あれ御覧候へ。いかにもして助け参らせんとは存じ候へども、味方の軍兵ぐんびやう雲霞うんかの如くに満ち満ちて、よものがし参らせ候はじ。あはれ同じうは、直実が手に掛け奉て、後の御孝養けうやうをもつかまつり候はん」と申しければ、「ただ何様にも、う疾う首を取れ」とぞのたまひける。熊谷余りにいとほしくて、いづくに刀を断つべしとも思えず、目もれ心も消え果てて、前後不覚に思えけれども、さてしもあるべきことならねば、泣く泣く首をぞ掻いてげる。




我が子の小次郎の年齢ほどで、十六七歳ばかりでしたが、顔かたちはとても美しいのでした。熊谷直実は、「いったいお前は何という者じゃ。名前を言え。助けたいのだ」。と言うと、「まずはそう言うあなたは誰なのか」と聞いてきました。熊谷直実は、「武蔵国の住人、熊谷次郎直実だ」と名乗りました。すると「ということはわたしはお前の敵だぞ。名のることはないので首を取って誰かに聞け。わたしのことを知っているはずだ」と答えました。熊谷直実は、「たいした大将軍だな。お前を一人討ったところで、負けるはずの戦に勝つわけでもない。またお前を助けたところで、勝ち戦に負けることもあるはずもない。今朝一の谷で、我が子の小次郎が軽い傷を負っただけでも、わしは心苦しく思ったのだが、お前の父は、お前が討たれたと聞いたら、どんなに嘆き悲しむことであろうか。だからお前を助けよう」と言って、後ろを振り返って見ると、土肥(土肥実平さねひら、桓武平氏で源頼朝の家臣)、梶原(梶原景時かげとき、頼朝の家臣)が五十騎ばかりやって来ました。熊谷直実は涙をとめどなく流して、「あれを見なさい。どうにかして助けようと思うが、味方の兵が雲霞のように大勢やって来て、もはや逃げることはできません。同じ討たれるのであれば、わたしが手を掛けて、後に孝養([追善供養])したいと思います」と言うと、「誰でもよいから、早く首を取れ」と言いました。熊谷直実はあまりにかわいそうで、どこに刀を断てばよいのかわからず、目もくらんで心も消え失せ、前後不覚([正体を失うこと])になりましたが、それでも仕方がないことなので、泣きながら首を刎ねました。


続く


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by santalab | 2013-11-18 20:10 | 平家物語 | Comments(0)

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