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「平家物語」六代(その3)

うへは若君をかかへ奉て、「ただ我を失へや」とて、をめき叫び給ひけり。乳母の女房にようばうも、御まへたふれ伏し、こゑしまず喚き叫ぶ。日頃は物をだに高く言はず、忍びつつ隠れたりしかども、今はいへの内にありとある者の、声を調へて泣き悲しむ。北条ほうでう岩木いはきならねば、さすがあはれげに思えて、涙を抑へ、つくづくとぞ待たれける。ややあつて、また人を入れてまうされけるは、「世もいまだしづまりさふらはねば、しどけなき御事もぞ候はんずらん。時政ときまさが御迎ひにまゐつて候ふ。別の子細は候ふまじ。う疾う出だし参らさせ給へ」と申されければ、若君、母上に申させ給ひけるは、「つひに逃るまじう候ふ上、早々はやはや出ださせおはしませ。武士どものうち入つて探すほどならば、中々うたてげなる御有様どもを、見えさせ給ひ候はんずらん。たとひ罷りて候ふとも、しばしもあらば、北条とかやにいとまうて、かへり参り候はん。痛うな嘆かせ給ひ候ひそ」と、慰さめ給ふこそいとほしけれ。




母上は若君(六代)を抱えて、「わたしだけ殺してください」と言って、泣き叫びました。乳母の女房も、二人の御前に倒れ伏して、声の限り泣き叫びました。日頃は声も立てず、忍んで隠れ住んでいましたが、家の中にいるすべての者たちが、声を合わせて泣き悲しみました。北条(時政)も岩木ではないので、さすがにあわれに思えて、じっと待っていました。しばらくして、また人を遣って申すには、「世もまだ静まっておりません、危ない目に遭うかもしれないのです。ですから時政がお迎えに参ったのです。他意はありません。早く出てください」と申したので、六代は、母上に申すには、「ここから逃げることができない以上、早くここから出してください。武士たちが家にうち入って探すことになれば、みすぼらしい有様も、見られるかもしれません。たとえわたしが出て行っても、しばらくすれば、北条という者に暇を頼んで、帰ってきますから。それほどに嘆くほどのことはありませんよ」と、母を慰めましたがかわいそうなことでした。


続く


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by santalab | 2013-11-19 15:05 | 平家物語 | Comments(0)

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