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「平家物語」泊瀬六代(その3)

近う人の住んだる所とも見えず。若君、「人目もぢず、命のしうさふらふも、母うへを今一度見ばやと思ふためなり。今は生きても何にかはせん」とて、悶え焦がれ給ひけり。その夜はそこにて待ち明かし、明けて後、近里きんりの人にたづぬれば、「年の内は大仏まうでと聞こえさせ給ひし。正月しやうぐわつのほどは、長谷寺に御籠りとこそうけたまはり候へ」とまうしければ、斎藤六急ぎ馳せ下り、母上にこの由かくと申しければ、母上取る物も取り敢へず、急ぎ都へ上り、大覚寺へぞおはしたる。母上、若君をただ一目見給ひて、「いかに六代御前、これは夢かやうつつか。はやはや出家し給へ」とのたまへども、文覚もんがくしみ奉て、御出家をばせさせ奉らず。すぐに高雄たかをへ迎へ取つて、かすかなる母上をも育みけるとぞ聞こえし。観音くわんおんの大慈大悲は、罪あるをも罪なきをも、助け給ふことなれば、上代じやうだいにはかかるためしもやあるらん。あり難かりしことどもなり。




最近まで人が住んでいた所とも見えませんでした。若君(平六代=高清たかきよ維盛これもりの嫡男)は、「人目も恥じることなく、命を惜しむのも、母上(新大納言局)をもう一度見たいと思うからなのです。母上に逢えないのであれば生きていても仕方ありません」と言って、悲し苦しみました。その夜はそこで明かして、夜が明けてから、近くの者に母上のことを訊ねると、「去年は大仏詣でに行くと言っていました。正月には、長谷寺に籠ると聞いています」と申したので、斎藤六(斎藤宗光むねみつ)が急いで馳せ下り、母上に六代が待っていることを申すと、母上は取る物も取り敢えず、急いで都に戻り、大覚寺(今の京都市右京区嵯峨にある寺院)へやって来ました。母上は、六代をただ一目見て、「どうしてここにいるのですか六代御前、これは夢なのでしょうかそれとも現実なのでしょうか。さあさあ一刻も早く出家なさい」と言いましたが、文覚は惜しんで、出家させませんでした。すぐに高雄山(今の京都市右京区高雄にある神護寺。神護寺は文覚が再興に尽力した寺院)へ迎えて、生活が苦しい六代の母上をも養いました。観音の大慈大悲([観世音菩薩の広大な慈悲])は、罪のある者罪のない者も、助けるということですから、昔にもこのようなこともあったのでしょうか。それにしてもありがたいことでした。


続く


by santalab | 2013-11-19 18:15 | 平家物語

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