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「平家物語」六道之沙汰(その2)

天人の五衰の悲しみ、人間にもさふらひけるものかな。さるにても誰かことまゐらせ。なにごとにつけても、さこそいにしへをのみこそ思し召し出づらめ」とおほせければ、女院、「いづ方よりもおとづるることもさぶらはず。信隆のぶたか隆房たかふさきやうの北の方より、たえだえまうし送ることこそさぶらへ。その昔あの人どものはぐくみにてあるべしとは、露も思し召しよらざりしものを」とて、御涙を流させ給へば、付き参らせたる女房にようばうたちも、皆袖をぞ濡らされける。ややあつて女院涙を抑へて申させ給ひけるは、「今かかる身になり候ふことは、一旦の嘆き申すに及び候はねども、後生ごしやう菩提だいのためには、よろこびと思え候ふなり。




天人の五衰([天人の死に際して現れるという五種の衰えの相])の悲しみは、人間にも表れるものなのだろうか。それはそうと誰か訪ね参らせてはどうか。どんなことにせよ、それこそ昔のことなど思い出すことだろう」と後白河院が申すと、建礼門院は、「どちらからもこちらを訪ねてくる人などおりません。信隆(藤原信隆、清盛の娘婿、建礼門院の義兄弟になります)隆房(藤原隆房、清盛の娘婿)卿の妻(建礼門院の姉妹でしょう)から、時折文が届けらるだけです。その昔はあの人たちに大切にされようとは、ほんの少しも思わなかったことですのに」と申して、涙を流したので、後白河院に付いてやって来た女房たちも、皆涙で袖を濡らしました。少しばかりあって建礼門院が涙を抑えて申すには、「今はこのような身になって、一時の嘆きなど申すまでもございませんが、後生菩提([来世に極楽に生まれて悟りを開くこと])のためを思えば、むしろうれしいことに思えます。


続く


by santalab | 2013-11-21 17:27 | 平家物語

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