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「平家物語」六道之沙汰(その8)

昔よりをんなは殺さぬ習ひなれば、いかにもして永らへて、主上しゆしやうの御菩提をとぶらひ、我らが後生ごしやうをも助け給へ』とまうさぶらひしを、夢の心地して思え候ひしほどに、風たちまちに吹き、浮雲ふうん厚くたなびき、つはものどもの心を惑はし、天運尽きて、人の力にも及び難し。すでにかうと見えしかば、二位にゐの尼先帝を抱きまゐらせて、船端ふなばたに出でし時、呆れたる御有様にて、『そもそも尼ぜ、我をばいづちへ具して行かんとするぞ』とおほせければ、二位尼、涙をはらはらと流いて、いとけなき君に向かひ参らせて、『君はいまだ知ろし召され候はずや。先世ぜんぜ十善じふぜん戒行かいぎやうの御力によつて、今万乗ばんじようあるじとはまれさせ給へども、悪縁に引かれて、御運すでに尽きさせ給ひ候ひぬ。先づひんがしに向かはせ給ひて、伊勢大神宮じんぐう伏しをがませおはしまし、その後西方さいはう浄土じやうど来迎らいかうあづからんと、誓はせおはしまして、御念仏候ふべし。




昔より女は殺さぬならわしですから、どうにかして長く生きて、主上([天皇]、安徳天皇のこと)の御菩提([死後の冥福])を追善供養し、わたしたちの後生([死後の世界])も救済してください』と話しましたが、夢の中の出来事のような心地がしておりますと、風が急に吹いて、雲厚くたなびき、兵たちは闘争心を失って、天運([天から与えられた運命])も尽き、人の力の及ぶところではありませんでした。すでに雌雄明らかに見えて、二位尼(建礼門院の生母、安徳天皇の祖母)は先帝(安徳天皇)を抱いて、船べりに出ていこうとした時、安徳天皇は驚いて、『これは尼よ、われをいったいどこへ連れていくのじゃ』とおっしゃったので、二位尼は、涙を静かに流して、まだ幼い君と向かって、『君はまだお分りになりませんか。先世([前世])の十善戒行([十善]=[十悪を犯さないこと]、[戒行]=[戒律を守って修行に励むこと])の御力によって、今の世に万乗([天子])として生まれましたが、悪縁([悪い結果をもたらす条件])に引き寄せられて、運([天命])はすでに尽きてしまったのです。まずは東に向い、伊勢大神宮に伏し拝みなさい、その後西方浄土([極楽浄土])の来迎([極楽浄土へ導くため阿弥陀仏や諸菩薩が紫雲に乗って迎えに来ること])を受けるために、祈りをささげ、念仏を唱えなさいませ。


続く


by santalab | 2013-11-21 19:15 | 平家物語

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