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「平治物語」待賢門の軍の事付けたり信頼落つる事(その13)

三河かみを落とさんと防き戦ふ侍には、大監物・小監物・藤左衛門じよう助綱すけつな、兵藤内が子、藤内太郎家継いへつぐを始めとして、我も我もと戦ひけり。兵藤内家俊は、もとより大臆病の思え取りたる者なりけるが、力なく大勢の中に蹴立てられて、心ならず馳せ行きけるが、馬を射させて幸とや思ひけん、小屋の内へ逃げ入りぬ。その子の家継は、父には似ず大剛の者にて、散々に戦ひ、敵あまた討ち取つて引きけるが、父が馬は射られて伏しぬ、主はなし、生捕られにけりと無念なれば、家継行きてなにかせんとて、ただ一人取つて返し、おほくの敵を斬り伏せて後、ある兵と引つ組んで落ち、指ちがへて死にけるを、家俊まのあたり小屋の内にて見たりければ、心憂く悲しくて、走り出でんとは思へども、戦場なれば恐ろしくて、子討たるるを見継がざりけり。後日に六波羅へ参りけるを見て、憎まぬ者ぞなかりける。




三河守(平頼盛よりもり。清盛の弟)を守って防ぎ戦う侍は、大監物・小監物・藤左衛門尉助綱、兵藤内(兵藤内家俊いへとし)の子、藤内太郎家継をはじめとして、われもわれもと争って戦いました。兵藤内家俊は、大臆病と評判の者でしたが、仕方なく大勢の中で駆けて、心うらはらに馳せて行きましたが、馬を射られて幸運と思ったのか、小屋の中に逃げてしまいました。家俊の子家継は、父には似ず大剛([非常に強い者])の者でしたので、散々に戦い、敵を大勢討ち捕って退くところに、父の馬が射られて倒れていました、主(家俊)はなく、生捕りにされたと残念に思い、家継が敵を追いかけてどうにかしようと、ただ一人戻って、多くの敵を斬り伏せた後、ある兵と組んで馬から落ち、刺し違えて死ぬのを、家俊は目の前で小屋の中から見ていました、心苦しく悲しくて、走り出ようと思いましたが、戦場が恐ろしくて、子が討たれるのを助けることができませんでした。後日家俊が六波羅に参るのを見て、憎く思わない者はいませんでした。


続く


by santalab | 2013-12-10 23:49 | 平治物語

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