入洛ありしかば、すなはち院参し給ひたるに、法皇も往事思し召し出でて、殊に哀れげにこそ見えさせおはしましけれ。髭切と言ふ太刀、清盛が許にありしを、御守りのためとて、院に召し置かれたりしを、今度頼朝に賜はりけり。青地の錦の袋に入れられたり。三度拝して賜はりけるとなん。
頼朝(源頼朝)は京に着いて、すぐに院御所に参りましたが、後白河院も昔を思い起こして、殊さら懐かしげに見ておりました。髭切という太刀(元は源氏重代の宝刀)は、清盛の許にありましたが、お守りのためと、後白河院に差し上げたものを、今度は頼朝に与えました。青地の錦の袋に入っていました。頼朝は三度礼拝して賜わりました。
(続く)