ここに代々の御門の御宝、天下に秘蔵せられたる十六巻の書あり。異朝にも我が朝にも伝へし人一人として愚かなる事なし。異朝には太公望これを読みて、八尺の壁に上り、天に上る徳を得たり。張良は一巻の書と名付け、これを読みて、三尺の竹に上りて、虚空を翔ける。樊くわいこれを伝へて甲胄を鎧ひ、弓箭を取つて、敵に向かひて怒れば、頭の兜の鉢を通す。本朝の武士には、坂上の田村麻呂、これを読み伝へて、悪事の高丸を捕り、藤原の利仁これを読みて、赤頭の四郎将軍を捕る。
ここに代々の帝の宝で、天下に秘蔵された十六巻の書がありました。異朝(中国)にも我が朝(日本)にもこれを知る者は一人も未熟者はいませんでした。異朝では太公望(紀元前11世紀頃の周の軍師、後に斉の始祖)はこれを読んで、八尺(約2.4m)の壁に上り、天に上る能力を得ました。張良(秦末期から前漢初期の政治家・軍師)は一巻の書と名付け、これを読んで、三尺の竹に上り、空を翔けました。樊かい(秦末から前漢初期にかけての武将)はこれを読み甲胄を着、弓箭([弓矢])を取って、敵に向かって怒れば、頭の兜の鉢を射通しました。本朝の武士では、坂上田村麻呂(平安時代初期の武官)が、これを読んで、悪事の高丸(坂上田村麻呂伝説上の人物)を討ち、藤原利仁(平安時代中期の武将)はこれを読んで、赤頭四郎将軍(坂上田村麻呂伝説上の人物)を討ちました。
(続く)