人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「義経記」義経鬼一法眼が所へ御出の事(その9)

幸寿かうじゆこの事をうけたまはりて、「女にてさうらふとも、然様さやうまうして候はんずるには、首を切られ候はんずる人にて候ふ」と申しければ、「斯様かやうに知る人になるも、この世ならぬ契りにてぞあるらめ。隠して詮なし。人々に知らすなよ。我は左馬のかみの子、源九郎と言ふ者なり。六韜りくたう兵法ひやうほふと言ふものに望みをなすに依りて、法眼ほふげんも心よからねども、斯様にてあるなり。その文の在り所知らせよ」とぞおほせける。「如何でか知り候ふべき。それは法眼のなのめならず重宝とこそ承りて候へ」と申せば、「さてはいかがせん」とぞ仰せける。「さ候はば、文を遊ばし給ひ候へ。法眼の斜めならず、いつきの姫君のすゑの、人にも見えさせ給はぬを、すかして御返事取りてまゐらせ候はん」と申す。「女性によしやうの習ひなれば、近付かせ給ひ候はば、などかこの文御覧ぜで候ふべき」と申せば、次の者ながらも、斯様に情けある者もありけるかやと、文遊ばして賜はる。




幸寿はこれを聞いて、「女であろうが、そのようなことを申しては、首を切るようなお人でございますれば」と申せば、義経は「こうして知る人になったのも、他生の縁あってのことだろう。ならば隠しても仕方ない。他人には知らせるな。わたしは左馬頭(源義朝よしとも)の子で、源九郎と申す者だ。六韜([中国の代表的な兵法書])の兵法というものを見てみたいと思って、法眼(鬼一法眼)には嫌われているが、ここにいるのだ。その書のありかを教えてくれ」と申しました。幸寿は「どうしてわたしが知っておりましょう。その書は法眼がたいそう大切にしている重宝と聞いております」と申したので、義経は「どうすればよいものか」と申しました。幸寿は「でしたら、文をお書きなさいませ。法眼がたいそう、かわいがっております末娘の姫君がおりまして、人にも逢わせておりません、うまく申して返事をもらって参りましょう」と申しました。「女性のことですから、お近付きになられれば、どうして書を見せないことがありましょう」と申したので、義経は次の者([身分の低い者])であっても、幸寿のように情けのある者もいるのかと、文を書いて渡しました。


続く


by santalab | 2014-02-01 08:42 | 義経記

<< 「承久記」重忠支へ戦ふ事(その2)      明日に向かって走るのやめようかな? >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧