かくて、明くる年の正月に、越前国に応神天皇の五代の御孫の王おはすと云ふ事聞こえて、また、司々、御迎へに参りたりしに、この王、驚く御気色なくして、あぐらに尻をかけて、御前に候ふ人々、畏まり敬ひ奉る事、朝廷の如くなりき。この御迎へに参りたる人々、いよいよ畏まりて、事の由を申しき。王、このことを疑ひ給ひて、空しく二日二夜を過ぐさせ給ひき。御迎への人々、重ねて、大臣の迎へ奉る由、事の有様を申し侍りし時に、京へ入り給ひしなり。さりながらも位を受け取り給はざりしかば、大臣をはじめてあながちに勧め奉りしかば、遂に位に即き給ひしなり。この御時、都遷り三度ありき。
そして、明くる年の正月に、越前国に応神天皇(第十五代天皇)の五代のお孫の王がおられると聞こえたので、また、司たちは、お迎えに参りましたが、この王は、まったく驚く気配もなく、あぐらをかいていました、御前の者たちは、畏敬しました、まるで朝廷のようでした。お迎えに参った者たちは、ますます畏まって、天皇としてお迎えすることを申し上げました。王は、これを疑って、空しく二日二夜が過ぎました。お迎えの者たちは、重ねて、大臣としてお迎えしたいと、申し上げたので、京へお入りになられました。けれども官位もお受け取りになられなかったので、大臣をはじめひたすら天皇にお即きになられるよう勧めて、遂に帝位に即かれたのでした。継体の時代に、都遷りが三度ありました。
(続く)