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「義経記」大津次郎の事(その8)

白鬢しらひげ明神みやうじんをよそにて拝み奉り、三河みかは入道にふだう寂照じやくせうが、

鶉鳴く 真野の入江の 浦風に 尾花浪寄る 秋の夕暮れ

と言ひけん古き心も今こそ思ひ知られけれ。今津いまづの浦を漕ぎ過ぎて、海津かいづの浦にぞ着きにける。十余人の人々を上げ奉りて、大津おほつ次郎じらうは御いとままうすなり。ここに不思議なる事あり。南より北へ吹きつる風の、今また北より南へぞ吹きける。判官はうぐわんおほせられけるは、「彼奴きやつは同じ次の者ながらも情けある者かな。知らせばや」と思し召し、武蔵坊むさしばうを召して、「知らせて下らば、後に聞きてあはれとも思ふべし。知らせばや」とのたまへば、弁慶大津次郎を招きて、「和君なれば知らするぞ。君にて渡らせ給ふなり。道にてともかくもならせ給はば、子孫のまぼりともせよ」とて、おひの中より、萌黄もよぎの腹巻に小覆輪こぶくりんの太刀取り添へてぞびにける。




白鬢明神(現滋賀県高島市にある白鬢神社)を遠くから拝み、三河入道寂照(平安中期の僧)が、

鶉が鳴く真野の入江(現滋賀県大津市堅田町真野)の浦吹く風に、すすきが手招きして浪を寄せる、そんな秋の夕暮れぞ。

と詠んだ昔が今こそ偲ばれるのでした。今津浦(現滋賀県高島市)を漕ぎ過ぎて、海津浦(現滋賀県高島市)にぞ着きました。十人余りの人々を上げて、大津次郎は別れを申しました。ここに不思議なことが起こりました。南から北へ吹いていた風が、今また北から南へ吹き出しました。判官(源義経)が申すには、「奴は次の者([身分の低い者])ではあるが情けがある者だ。名を明かそう」と思って、武蔵坊(弁慶)を呼んで、「名を明かして下れば、後に聞いて何か思うところもあるだろう。名を明かそうと思う」と申したので、弁慶は大津次郎を呼んで、「お主には知らせよう。あの方こそ君(義経)であられるぞ。道中で何かあるかも知れぬ。子孫の守りとせよ」と申して、笈([修験者などが仏具・衣服・食器などを収めて背に負う箱])の中から、萌黄([黄緑])の腹巻に([鎧])小覆輪([覆輪]=[刀剣などに施した装飾])の太刀を添えて与えました。


続く


by santalab | 2014-02-18 21:19 | 義経記

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