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「義経記」判官北国落の事(その13)

武蔵坊むさしばう片岡かたをかまうしけるは、「いかがせん、いざや北の方の御足早くなし奉るべし。片岡に申せ」と言ひければ、御前おまへまゐりて申しけるやうは、「かやうに御渡りさうらはば、道行くべしとも存じさうらはず。君は御心しづかに御下り候へ。我らは御先おんさきに下り候ひて、秀衡ひでひらに御所造らせて、御迎ひに参り候はん」と申して、御先に立ちければ、判官はうぐわんおほせには、「如何に人の御名残りしく思ひ参らせ候へども、これらに棄てられては叶ふまじ。都のとほくならぬ先に、兼房かねふさ御伴してかへれ」と仰せられて、棄て置きて進み給へば、さしも忍び給ひし御人の御こゑを立てて仰せられけるは、「今より後は道遠しとも悲しむまじ。たれあづけ置きて、いづくへ行けとて捨て給ふぞ」とて、声を立てて悲しみ給へば、武蔵また立ちかへり、具足し奉りける。




武蔵坊(弁慶)が片岡(片岡常春つねはる)に申すには、「どうにかせよ、なんとかして北の方(さと御前)を急がせよ。片岡に任せたぞ」と言うと、片岡(常春)は義経の御前に参って申すには、「今のようにゆっくりと進まれたなら、いつまで経っても奥州に着けません。君(義経)はお心に任せてお下りくださいませ。我らは先に下って、秀衡(藤原秀衡)に御所を造らせて、お迎いに参りましょう」と申して、先立てば、判官(義経)が北の方に申すには、「どれほどそなたとの別れを惜しむとも、片岡たちに先立たれてはとても奥州にはたどり着けまい。都が遠くならない前に、兼房(十郎権頭ごんのかみ兼房。架空人物らしい。北の方の守り役)を供として都に帰れ」と言われて、北の方を棄て置いて進むと、北の方はさすがに忍び敢えず声を立てて泣きながら申すには、「今よりはいくら道が遠くとも悲しみません。いったい誰の許に預け置いて、どちらへ参れとわたしを見捨てるのでございましょう」と申して、声を立てて泣いたので、武蔵(弁慶)はまた戻って、北の方を連れて歩きました。


続く


by santalab | 2014-02-19 21:28 | 義経記

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