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「義経記」忠信最期の事(その2)

白い小袖に黄なる大口おほくち直垂ひたたれの袖を結びて肩に打ち越し、咋日きのふ乱したる髪をいまだけづりもせず、取り上げ、一所ひとところひ、烏帽子えぼし引き立て押し揉うで、盆のくぼに引き入れ、烏帽子懸けを以つてひたひにむずと結ひて、太刀を取り差し、うつぶきて見れば、いまだ仄暗ほのぐらくて、物の具の色は見えず、かたき叢々むらむらに控へたり。中々中をとほりて、紛れ行かばやとぞ思ひける。されどもかたき甲胃かつちうを鎧ひ、矢をげて、駒に鞭を進めたり。追ひ掛けて散々に射られんず。薄手負うて死にも遣らず、生けながら六波羅へ捕られなんず。判官はうぐわんのおはする所知らんずらんと問はば、知らずと申さば、さらば放逸はういつに当たれとて糾問きうもんせられ、一旦知らずとまうすとも、次第に性根しやうね乱れなん後はありのままに白状はくじやうしたらば、吉野の奥に留まりて、君に命をまゐらせたる心ざし無になりなん事こそ悲しけれ。如何にもしてここを逃ればやとぞ思ひける。




忠信ただのぶ(佐藤忠信)は白い小袖([着物])に黄色の大口([大口袴]=[裾の口が大きい下袴])に、直垂([鎧の下に着る着物])の袖を結んで肩に打ち上げ、咋日乱した髪を梳りもせず、持ち上げ、一つに結い、烏帽子をかぶり押し込めて、盆の窪([首の後ろ、付け根あたり])に引き入れ、烏帽子懸け([烏帽子の上からかけ,あごの下で結ぶ緒])で額にしっかり結んで、太刀を差し、伏せて見れば、まだ薄暗くて、物の具([武具])の色は見分けられないものの、敵が点々と群がっていました。忠信はどうにかして中を分けて、逃れようと思いました。けれども敵は鎧を着て、矢を番い、馬に鞭を当てて馳せ来ました。逃れようとすれば追いかけられて散々に射らるに違いない。薄手を負って死にもせず、生きながら六波羅へ捕らえられることだろう。判官(源義経)のおられる所を知っているであろうと尋ねられたら、知らないと答えるほかないが、ならば放逸([手荒く乱暴なこと])せよと糾問([罪や不正を厳しく問いただすこと])を受け、一旦は知らないと答えようが、次第に性根([根気])を失ってありのままに白状することにでもなれば、吉野の山奥に留まって、君(義経)に命を差し出した心ざしが無になると思えば悲しい。なんとしてでもここから逃れようと思いました。


続く


by santalab | 2014-02-20 20:33 | 義経記

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