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「義経記」忠信吉野山の合戦の事(その9)

九郎判官はうぐわんまうすは、世に超えたる大将軍だいしやうぐんなり。召し使はるる者一人当千いちにんたうぜんならぬはなし。源氏の郎等らうどうも皆討たれ候ひぬ。御方の衆徒しゆと大勢死に候ひぬ。源氏の大将軍と大衆の大将軍と運比べの戦仕り候はん。かく申すは何者ぞやと思し召す、紀伊の国の住人ぢゆうにん鈴木党すずきたうの中に、さる者ありとは、予ねて聞こし召してもや候ふらん。以前に候さうらひつる川連かはつら法眼ほふげんと申す不覚人ふかくじんには似候ふまじ。幼少えうせうの時よりして腹悪しきえせ者の名を得候ひて、紀伊の国を追ひ出だされて、奈良の都東大寺に候ひし、悪僧立つる曲者にて東大寺も追ひ出だされて、横川よかわと申す所に候ひしが、それも寺中じちゆうを追ひ出だされて、川連の法眼と申す者を頼みて、この二年こそ吉野には候へ。しかればとて横川より出で来たり候ふとて、その異名いみやうを横川の禅師覚範かくはんと申す者にて候ふが、中差しまゐらせて現世げんぜ名聞みやうもんと存ぜうずるに、御調度みてうづ給ひては、後世ごせの訴へとこそ存じ候はんずれ」と申して、四人張りに十四束を取つてげ、かなぐり引きによつ引きてひやうど放つ。




九郎判官と申すは、世に超えた大将軍ぞ。召し使者一人として一人当千(千人力)でない者はいない。源氏の郎等([家来])は皆討たれた。味方の衆徒([僧])も大勢死んだ。今こそ源氏の大将軍(義経)と大衆([僧])の大将軍が運比べの戦をする時ぞ。こう申すを何者と思っている、紀伊国の住人鈴木党の中に、その者ありとは、聞いておられるやも知れぬ。前の大将軍川連法眼と申す不覚人([不心得者])と同じと思うな。幼少の頃より腹黒いえせ者([意地の悪い者])と名を得て、紀伊国を追い出されて、奈良の都東大寺(現奈良県奈良市にある寺)に居たが、悪僧の中の曲者として東大寺も追い出されて、横川(比叡山延暦寺の横川)と申す所に居たが、そこも寺中を追ひ出されて、川連法眼と申す者を頼って、ここ二年ばかり吉野に居たのだ。ならばということで横川よりやって来た来たと、異名を横川禅師覚範と申す者だが、中差し(征矢)を射参らせて現世の名聞([名声])としたいと思っておるぞ、もし御調度([弓矢])を身に受けたなら、後世に恨みを晴らそうとな」と申して、四人張りの弓に十四束の矢を取って番い、力いっぱい弓を引いて矢を射ました。


続く


by santalab | 2014-02-25 23:55 | 義経記

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