大の法師攻め立てられて、額に汗を流し、今は斯うとぞ思ひける。忠信は酒も飯もしたためずして、今日三日になりければ、打つ太刀も弱りける。大衆はこれを見て、「よしや覚範勝つに乗れ、源氏は受太刀に見え給ふぞ。隙なあらせそ」と、力を添へてぞ斬らせける。しばしは進みて斬りけるが、いかがしたりけん、これも受刀にぞなりにける。大衆これを見て、「覚範こそ受刀に見ゆれ。いざや下り合ひて助けん」と言ひければ、「もつともさあるべし」とて、落ち合ふ大衆誰々ぞ。医王禅師、常陸の禅師、主殿助、薬院の頭、返坂の小聖、治部の法眼、山科の法眼とて、究竟の者七人喚きて懸かる。
大の法師(覚範)は攻め立てられて、額から汗を流し、防ぐのがやっとでした。忠信(佐藤忠信)は酒も飯も口にせず、今日で三日目でしたので、打つ太刀にも力が入りませんでした。大衆([僧])はこれを見て、「いいぞ覚範が優勢だ、源氏は受太刀に見えるぞ。隙を見せるな」と、応援して戦わせました。しばらくは覚範が攻めていましたが、どうしたことか、いつの間にか覚範が劣勢になっていました。大衆([僧])はこれを見て、「覚範の方が受刀のようだ。どうだ下り合って覚範を助けよう」と言うと、「そうしよう」と、助太刀する大衆は誰かというと。医王禅師、常陸禅師、主殿助、薬院頭、返坂小聖、治部法眼、山科法眼という、究竟の者七人が喚きながら忠信に攻めかかりました。
(続く)