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「義経記」関東より勧修坊を召さるる事(その2)

得業とくごこれを聞きて、「世は末代と言ひながら、王法わうぼふの尽きぬるこそ悲しけれ。上古しやうこは宣旨とまうしければ、枯れたる草木も花咲き実を結び、空飛ぶ翼も落ちけるとこそうけたまはり伝へしに、されば今は世も斯様かやうなれば、すゑの代もいかがあらんずらん」とて、涙に咽び給ひけり。「たとひ宣旨院宣ゐんぜんなりとも、南都にてこそかばねを捨つべけれども、それも僧徒の身として穏便おんびんならねば、東国の兵衛ひやうゑすけは諸法も知らぬ人にてあるなるに、ついでもがな関東くわんとうへ下りて兵衛の佐を教化けうけせばやと思ひつるに、下れとおほせらるるこそ嬉しけれ」とて、やがて出で立ち給ひけり。公卿くぎやう殿上人てんじやうびとの君達学問の心ざしおはしましければ、師弟の別れを悲しみ、東国まで御供申まうすべき由を申し給へども、得業おほせられけるは、「努々ゆめゆめあるべからず。身罪過ざいくわの者にて召し下されさうらあひだとがとてその難をばいかでか遁れさせ給ふべき」と諌め給へば、泣く泣く後に止まり給ふ。




得業(聖弘しやうこう)はこれを聞いて、「世は末代([道義の衰えた末の世])と言いながら、王法([政治])までも力尽きようとしているのは悲しいことだ。上古では宣旨と申すのは、枯れた草木も花咲き実を結び、空飛ぶ鳥も落ちると聞いているが、今では世の力も衰えて、この先どうかることか」と申して、涙に咽びました。「たとえ宣旨院宣が下されようと、南都(奈良)に屍を捨てようと思っているが、それも僧徒の身としてならぬ事であれば、東国の兵衛佐(源頼朝)は諸法([この世に存在する有形・無形の一切のもの])を知らない人だと聞いて、機会があれば関東に下って兵衛佐(頼朝)を教化([人々を教え導いて仏道に入らせること])しようとも思っていた、下れと命じられることこそうれしいことよ」と申して、すぐに奈良を出で立ちました。公卿([大臣・納言・三位以上の者])殿上人の君達([子])は聖弘の許で学問したいと思っていたので、師弟の別れを悲しみ、東国まで供をしたいと申しましたが、得業(聖弘)が申すには、「ばかなことを申すでない。わたしは罪過ある者として東国に下されるのだ、罪に問われたその難から遁れることはできないのだから」と諌めたので、皆泣く泣くあきらめました。


続く


by santalab | 2014-02-26 22:04 | 義経記

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