打って変はりし滝口が今日この頃の有様に、あれ見よ、当世嫌ひの無骨者も一度は折らねばならぬ我慢なるに、笑止や日頃我らを尻目に懸けて軽薄武士と言はぬばかりの顔、今さらどこに下げて我らに向かひ得るなど、後ろ指指して嘲り笑ふものあれども、滝口少しも意に介せざるが如く、応対などは常の如く振る舞ひけり。されど自慢の頬髭掻い撫ずる隙もなく、青黛の跡絶えず鮮やかにして、萌黄の狩衣に摺皮の藺草履よろづ派手やかなる出で立ちは一目にそれと紛ふべくもあらず。顔かたちさへ少々やつれて、立居も物憂きが如く見ゆれども、人に向かつて気色の勝れざるを託ちし事もなく、たまたま病ひなどなきやと問ふ人あれば、かえつて意外の面持ちして、常にも増して健やかなりと答へけり。
見間違うほどに変わってしまった滝口(斎藤時頼)のこの頃の有様に、あれを見ろ、浮世嫌いの無骨者も一度は我を通すことに悩んで我慢することを覚えるものだが、恥ずかしげもなく日頃は我らのことを見下して軽薄武士などと言わんばかりの顔をしておった滝口が、今さらどの面下げて我らの真似をするものかと、後ろ指を指して嘲り笑う者もいました、滝口は少しも気にする様子もなく、受け答えなどはいつものままでした。けれども自慢の頬髭を撫でることもなく、青黛([青い黛で描いた眉])の跡はいつもくっきりと、萌黄の狩衣に摺皮([染料をすりこんで模様を染めたもの])の藺草履([いぐさで編んだ草履])など、すべてに派手な姿は一目で時頼と分かりました。姿かたちは少々やつれて、立居もけだるそうに見えましたが、人に体の不調を訴えることもなく、たまに病いではないかと聞く者があれば、意外そうな顔をして、いつもにも増して健康ですと答えました。
(続く)