僧はいと懇ろに道を教ふれば、横笛世に嬉しく思ひ、礼もいそいそ我行く後ろ影、鄙には見慣れぬ緋の袴に、夜目にも輝く五柳の一重、件の僧はしばし佇みて訝しげに見送れば、焚き籠めし異香、吹き来る風に時ならぬ春を匂はするに、にはかに忌はしげに顔背けて小走りに立ち去りぬ。
僧はとても親切に道を教えてくれたので、横笛はとても嬉しく思って、礼もそこそこに先を急ぎました、横笛は田舎では見ない赤い袴に、夜目にも輝く五柳(五柳絵。オリエンタルにしてきらびやかな文様とでもいうのでしょうか)の一重を着ていたので、この層はしばらく立ち止まって怪しむように横笛を見送りましたが、焚き籠めたよい香りが、吹き来る風に季節はずれの春の匂いを運んだので、僧はおもむろにけがらわしく思って顔を背けて小走りで立ち去りました。
(続く)