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「水鏡」斉明天皇(その2)

七月に智通ちつう智達ちたつと云ふ二人の僧を唐土に遣はして、玄奘げんじやう三蔵に法相ほつさう宗をば伝へ習はせさせ給ひしなり。この御時に義覚と云ふ僧ありき。百済国より来たれりし人なり。難波の百済寺になん住み侍りし。その寺に恵義ゑぎと云ふ僧ありき。夜中ばかりに出でて、義覚がある所を寄りて見れば、室の内に光を放てり。恵義怪しく思ひて密かに窓の紙を破りて見れば、義覚、経を読みける口より光を放てるなりけり。恵義浅ましく思ひて、明くる日なん、人々に語り侍りし。義覚、弟子に語りしを聞き侍りしかば、「一夜、心経を読み奉りて百遍ばかりになりしほどに、目を見上げて室の内を見しかば、廻りに隔てもさらになくて、庭の露はに見えしかば、いかなる事にかと思ひて、室を出でて寺の内を見廻りて帰りたりしかば、もとの如く壁もあり、とぼそも閉じたりしかば、室の外の床に居て、また、心経を読み奉りしに、さきにありつるやうに隔てもなくなりにき。これは般若の不思議なり」となんまうしし。心に万法皆むなしと思ひて観念のいたりけると思えてあはれに侍りし事なり。




七月に智通・智達という二人の僧を唐土に遣わして、玄奘三蔵(三蔵法師)に法相宗(玄奘が開祖)を習わせました。斉明さいめい天皇の時代に義覚という僧がいました。百済国より来朝した者でした(百済が滅ぼされた時に来朝したらしい)。難波の百済寺(現大阪府枚方市にかつてあった寺)に住んでいました。百済寺に恵義という僧がいました。夜中に部屋を出て、義覚の居所に近付いて見ると、室の内に光を放っていました。恵義は不思議に思って密かに窓の紙を破って中を見れば、義覚が、経を読むその口から光を放っていたのでした。恵義はますます不思議に思って、明くる日に、人々にこれを話しました。義覚は、弟子からこれを聞いて、「昨夜は、心経(般若心経)を読んで百遍ばかりになった時、目を見上げて部屋の中を見ると、廻りに隔てるものがまったくなくて、庭のあらわに見えたので、どういうことかと思って、部屋を出て寺の中を見廻って戻って来ると、元通り壁もあり、枢([扉])も閉じていたので、部屋の外の床に居て、また、心経を読むと、さきほどのようにまた隔てがなくなったのだ。これは般若の不思議の力であろう」と申しました。心に万法([物質的、精神的なすべての存在])はすべてはかないものと思って観念([真理や仏・浄土などに心を集中して観察し、思念すること])に至ったのだと思われることでした。


続く


by santalab | 2014-03-15 09:57 | 水鏡

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