武蔵の守見給ひて、「結句安東も軍するござんなれ」とぞ笑ひ給ひける。平六兵衛と言ふ者を以つて、重ねて使ひに立てられて、「和君も二の振る舞ひするな」と言はれて、手を叩いて制すれども、耳に聞き入るる者なし。いよいよ乱れ合ひて戦ふ。平六兵衛力及ばずして帰りけり。
武蔵守(北条泰時)はこれを見て、「結局安東(安東忠家)も軍をしておるではないか」と申して笑いました。平六兵衛をいう者を、重ねて使いに立てて、「お主も安東(忠家)の二の舞いになるな」と言われて、手を叩いて軍をやめさせようとしましたが、聞く者はありませんでした。ますます入り乱れて戦いました。平六兵衛は仕方なく戻ってきました。
(続く)