胤義言ひけるは、「さこそ公けの軍と言ひながら太郎無礼なるかな。景義洩すな」とて、高井を始めとして中に取り込められて、馬手の田中へ駆け落とされけり。馳せ上がらんとするところに、弓手・馬手より攻めければ馬より落ち、徒歩になりてぞ戦ひける。景義が甥平兵衛・嫡子兵衛の太郎・角田兄弟命を捨てて、景義を後に押しなし戦ひけり。敵はずして胤義引き返す。
胤義(三浦胤義)が言うには、「これは公の戦とは言えども太郎(佐原景義)はなんと無礼な奴かな。景義を洩らさす討て」と言って、高井をはじめとする中に取り込めて、馬手([右手])の田の中へ馬ごと落としました。景義が急ぎ田から上がろうとするところを、弓手([左手])・馬手より攻めたので景義は馬から落ち、徒歩になって戦いました。景義の甥平兵衛・嫡子兵衛太郎・角田兄弟が命を捨てて、景義を後ろに押し遣って戦いました。胤義は討つことができずに引き返しました。
(続く)