いづれも若き内に、世付きたる心もなければ、晴るけ遣る方なくて過ぎつるを、九月、菊の宴果てて夕べに、人々罷で散るに、「なほさりぬべき隙もや」と、宮に参りて気色を取るに、宮も御前のかれ御覧ずとて、階近うおはしますほどなりけり。
(弁少将と神奈備の皇女は)どちらもまだ若く、世間にも慣れていませんでしたので、弁少将は気をただ紛らわせて過ごしていました、九月の、菊の宴が終わり、人々は帰って行きましたが、弁少将は「神奈備の皇女に会えるかも」と思って、后宮に機嫌をうかがいに参りました、后宮も御前の弁少将を御覧になろうと、階([殿上へ上る階段])近くまで出て来られました。
(続く)