とても、いと侘しと思したれば、人の思はむことの苦しさに、生ける心地もせねど、さてもえ乱れず、長き夜すがら歎き明かして、かくなむ。
いたづらに あかせるよはの ながき夜の あかつき露に ぬれかゆくべき
いかばかり思ひ
返してか、「その名は云はじ」とうち泣く様も心深げなるを、さすがにあはれと見給ふ。
あかつきの 露のその名し もらさずば われわすれめや よろづ世までに
弁少将はとても、悲しくなりました、神奈備の皇女が気付いていなかったことが心苦しく、生きた心地もしませんでしたが、心乱したところで仕方のないことでした、長夜を一晩中泣き明かして、こう詠みました。
徒らに長夜を明かしてしまいました。暁の露に濡れたまま、帰るしかありません。
どれほど思い返したことでしょう、「あなたの名は誰にも申しません」と泣く姿がたいそう思い詰めた様子でしたので、神奈備の皇女もさすがにかわいそうに思うのでした。
暁の露に濡れながらその名を漏らさないと言ったあなたのことは、いつまでも忘れませんから。
(続く)