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「松浦宮物語」一(その17)

大将さへ添ひおはすれば、そちの宰相いみじく経営けいめいして、遊びし文作る。これに日来留まりて、四月十日余り、船装ふなよそひし給ふ。行方ゆくへも知らぬ海のおもてを見給ふに、かねて思ひしことなれど、宮は心よはく流し添へ給ふ。

けふよりや 月日のいるを したふべき まつらの宮に わがこまつとて

大将殿、
もろこしの まつらの山も はるかにて ひとりみやこに われやながめむ

いかばかりかかくてもおはせまほしけれど、宣旨重ければ、かへり給ふなりけり。弁少将氏忠うぢただ
なみぢゆく いくへの雲の ほかにして まつらの山を おもひおこせむ




大将が訪ねて来たので、帥([太宰府帥]=[大宰府の長官])の宰相はたいそうもてなして、文(漢詩)を作って遊びました。太宰府に数日留まって、四月十日過ぎになって、船装い([出船の準備])を始めました。我が子が行方も知らないこの海面を通って行くのだと思えば、かねてより分かっていたことでしたが、宮(母)は心弱くなって涙を流しました。

今日からは、ここで月日の入るのを眺めながら暮らすことにいたしましょう。この松浦の宮で我が子を待ちながら。

大将殿は、
妻が我が子を待つ松浦の山でさえ、遥か遠い場所だ。わたしは一人都に残って、我が子や妻が暮らす方を眺めて暮らすことだろう。

どれほどこの地に留まりたいと思いましたが、宣旨には背くことはできずに、大将殿は都に帰って行きました。いかばかりかかくてもおはせまほしけれど、弁少将氏忠(橘氏忠)は、
わたしは浪路遠く唐に参ります。幾重の雲の彼方の松浦の山に母が待っているのだと、日々思って眺めることにいたしましょう。


続く
by santalab | 2014-05-13 22:09 | 松浦宮物語

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