かくて、この皇子は、「一生の恥、これに過ぐるはあらじ。女を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人の、見思はむことの恥づかしきこと」とのたまひて、ただ一所、深き山へ入り給ひぬ。宮司、侍ふ人々、皆手を分かちて、求め奉れども、御死にもやし給ひけむ、え見つけ奉らずなりぬ。
皇子の御供に隠し給はむとて、年来見え給はざりけるなりけり。これをなむ、「たまさかる」とは言ひ始めける。
こうして、庫持の皇子は、「一生の恥です。こんなに恥じたことはありません。かぐや姫をものに出来なかったばかりか、天下人にあるまじき屈辱を受けました」といって、どこかある場所、深い山奥に入って行きました。仕える者たちは、みんなで手分けして探しましたが、亡くなってしまったのか、探し出すことができませんでした。
庫持の皇子は家来からも隠れて、それから何年経っても姿を見せませんでした。これを人々は、「稀有(『たまさかる』)なことですが、偽の『蓬莱の珠』でかぐや姫を欺いたので(『珠逆る』)、バチが当たってすでに亡くなっているのでは(『魂離る』)」と言い始めたのでした。
(続く)