各々仰せ承りて罷りぬ。「『竜の首の珠取り得ずは、帰り来な』と、のたまへば、いづちもいづちも、足の向きたらむ方へ往なむず」「かかる数寄事をし給ふこと」と誹り合へり。賜はせたる物、各々分けつつ取る。あるいはおのが家に籠り居、あるいはおのが行かまほしき所へ往ぬ。「親、君と申すとも、かくつきなきことを給ふこと」と、事ゆかぬもの故、大納言を誹り合ひたり。「かぐや姫据ゑむには、例やうには見にくし」とのたまひて、麗しき屋を造り給ひて、漆を塗り、蒔絵して壁し給へて、屋の上には糸を染めて色々葺かせて、内々の設ひには、言ふべくもあらぬ綾織物に絵を描きて、間ごと貼りたり。もとの妻どもは、かぐや姫を必ず婚はむ設けして、ひとり明かし暮らし給ふ。
家来たちはそれぞれに大伴御行の命令を受けて出かけました。大納言に「『竜の首の珠を取るまでは、帰ってくるなよ』と、言われたので、どこへなりとも、足の向く方へと歩いていくことにしましょう」(「往なむず」=「往なむとす」)と言って出かけたものの、「こんなとんでもない役目はごめんだ」と悪口をいい合ったのでした。大伴御行から旅の用意としてもらった品物も、家来たちで分け合いました。そして、ある者は自分の家に籠ってしまい、ある者は行きたいと思う場所へ往ってしまいました。「いくら親や主人が言うこととはいえ、こんな無茶なことを命じるとはどういうことか」と、まったく道理に合わず理不尽なことだと、大納言のことを罵り合いました。一方の大伴御行といえば、「かぐや姫を住まわせる屋敷は、並みのものではみっともない」と言って、美しい家屋を造って、柱には漆を塗り、壁には蒔絵を施し、天井には糸を染めて色とりどりに覆い、内装の飾りには、言葉で表せないほど華麗な綾織物に絵を描いて、柱と柱の間に貼りました。大伴御行の前妻たちを、かぐや姫と必ずや結婚するからと大納言の家から追い出して、独り日を過ごすようになりました。
(続く)