さて、仕うまつる百官の人に饗厳めしう仕うまつる。帝、かぐや姫を留めてたる心地してなむ、帰らせ給ひける。御輿に奉りて後に、かぐや姫に、
帰るさの 行幸もの憂く 思ほえて 背きてとまる かぐや姫ゆゑ
御
返事、
葎はふ 下にも年は 経ぬる身の 何かは玉の 台をも見む
これを、帝、御覧じて、いかか帰り給はむ空もなく
思さる。御心は、さらに立ち帰るべくも思されざりけれど、さりとて、夜を明かし給ふべきにあらねば、帰らせ給ひぬ。
その後、帝の御供の役人たちのために盛大な宴を開きました。帝は、かぐや姫のところにずっといたい思いでしたが、帰りました。御輿にお乗りになった後に、かぐや姫に歌を詠みました。
わたしは帰ろう。今は楽しいはずの行幸さえつらく思いながら。わたしの意志に背いて頑なに拒むかぐや姫よ、そなただからか。それとも、背中を向けたそなたの面影がこの先ずっとわたしから消え残るからなのか。
かぐや姫からの返歌、
雑草が覆った下で、年月を過ごした身分の低いわたしですから、どうして高貴な御殿に住めるはずもございません。
この歌を、帝は、ご覧になって、いっそう(『いとど』)帰ろうとする気持ちが揺らぎました。内心は、ますますかぐや姫の許から離れることがつらくてたまりませんでしたが、そうはいっても、夜を明かすこともできず、帰って行きました。
(続く)