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「太平記」結城入道堕地獄事(その4)

門より入つて内を見るに、奇麗にして美を尽くせる仏殿あり。その額をば「理非断りひだん」とぞ書きたりける。僧をば旦過たんぐわに置いて、山伏は内へ入りぬ。暫くあつて、前の山伏、内より螺鈿らでんはこ法華経ほけきやうを入れたるを持ち来たつて、「ただ今これに不思議の事あるべきにて候ふ。いかに恐しく思し召しさうらふとも、息をも荒くせず、三業さんごふを静めてこの経を読誦候ふべし」と云つて、己は六の巻のひぼを解いて寿量品じゆりやうぼんを読み、僧には八の巻を与へて、普門品ふもんぼんをぞ読ませける。僧何事にやと怪しく思ひながら山伏の云ふに任せて、口には経を誦し、心に妄想まうさうを払つて、寂々じやくじやくとしてぞ居たりける。




僧が門を入って内を見れば、奇麗に美を尽くした仏殿がありました。その額には「理非断」と書いてありました。僧を旦過([宿泊所])に置いて、山伏は内へ入って行きました。しばらくして、山伏は、内より螺鈿([貝殻の真珠光を放つ部分を磨り平らにして細かく切り、文様の形に漆器や木地にはめこんで装飾するもの])の箱に法華経を入れたものを持って来て、「今からここで不思議なことが起こるぞ。どんなに恐しくとも、取り乱すことなく、三業([身・口・心による種々の行為])を静めてこの経を唱えていなさい」と言って、山伏は六の巻の紐を解いて寿量品(『法華経』二十八品中の第十六如来寿量品)を読み、僧には八の巻を与えて、普門品(普門品法華経の第二五品、すなわち『観世音菩薩普門品』=『観音経』)を読ませました。僧は何が起こることかと不思議に思いながら山伏の言う通り、口には経を誦し、心に妄想を払って、寂々([無心])にしていました。


続く
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by santalab | 2014-05-20 08:25 | 太平記 | Comments(0)

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