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「太平記」結城入道堕地獄事(その5)

夜半過ぐるほどに、月にはかに掻き曇り、雨荒くいなびかりして、牛頭馬頭ごづめづ阿放羅刹あはうらせつども、その数を知らず、大庭おほには群集くんじゆせり。天地須臾しゆゆ換尽くわんじんして、鉄城てつじやう高くそばだち、くろがねの綱四方しはうに張れり。烈々たる猛火みやうくわ燃えて一由旬いちゆじゆんが間に盛んなるに、毒蛇どくぢや舌を延べて焔を吐き、くろがねの犬きばをといで吠え怒る。僧これを見て、あな恐ろし、これは無間地獄むけんぢごくにてぞあるらんと恐怖して見居たるところに、火の車に罪人を一人乗せて、牛頭馬頭の鬼ども、ながへを引いて虚空より来たれり。待つて怒れる悪鬼あくきども、鉄のまないた盤石ばんじやくの如くなるを庭に置きて、そのうへにこの罪人を取つてあをのけに伏せ、その上にまた鉄の俎を重ねて、諸々の鬼ども膝を屈しひぢを延べて、ゑいや声を出だし、「ゑいやゑいや」と押すに、俎のはづれより血の流るる事油をしたづるが如し。これを受けておほきなる鉄の桶に入れ集めたれば、ほどなく十分に湛えて滔々たる事夕陽せきやうを浸せる江水の如くなり。




夜半を過ぎるほどに、月はたちまち掻き曇り、雨は激しく荒く雷が鳴って、牛頭馬頭の阿放羅刹([地獄の牢番])どもが、数知れず、大庭に集まって来ました。天地はあっという間に換尽([地獄の城])に変わり、鉄城が高く立ち上ると、鉄の綱([鎖])が四方に張られました。激しい猛火は燃えて一由旬(約8km)四方は盛りに、毒蛇舌を出して炎を吐き、鉄の犬は牙をむいて吠え怒りました。僧はこれを見て、なんと恐ろしいことか、これは無間地獄([阿鼻地獄]=[八大地獄の第八])にて違いないと恐ろしく思っているところに、火の車に罪人を一人乗せて、牛頭馬頭の鬼どもが、轅を引いて虚空よりやって来ました。待ち構えていた悪鬼どもは、鉄の俎の盤石のように大きなものを庭に置いて、その上にこの罪人を仰向けに伏せると、その上にまた鉄の俎を重ねて、鬼どもは膝かがめて肘をのばし、かけ声をかけて、「えいやえいや」と押すと、俎の外からは血が流れまるで油がしたたるようでした。これを受けて大きな鉄の桶に集めると、ほどなく満杯になって溢れ出ましたがまるで夕陽を映した江水(長江=揚子江)のようでした。


続く
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by santalab | 2014-05-20 08:35 | 太平記 | Comments(0)

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