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「太平記」結城入道堕地獄事(その8)

うつつさかひもいまだ思へねども夜すでに明けければ、この僧現化けんげの不思議に驚いて、急ぎ奥州あうしうへ下り、結城上野入道が子大蔵権少輔おほくらごんのせうにこの事を語るに、「父の入道が伊勢にて死したる事、いまだ聞き及ばざるさきなれば、これ皆夢中の妄想まうさうか、幻の間の怪異けいか」と、まことしからず思へり。その後三四日あつて、伊勢より飛脚下つて、父の上野入道が遺言ゆゐごんやう、臨終の悪相共どもくはしく語りけるにこそ、僧の云ふところ一つもいつはらざりけりと信を取つて、七々日なぬかなぬかの忌日に当たる毎に、一日経いちにちぎやう書供養かきくやうして、追孝つゐけう作善さぜんをぞ致しける。




夢とも幻とも思えないうちに夜もすでに明けて、僧は現化([神仏が姿を変えてこの世に現れること])の不思議に驚いて、急ぎ奥州に下り、結城上野入道(結城宗広むねひろ)の子大蔵権少輔(結城親朝ちかとも。宗広の嫡男)にこの事を語りましたが、「父入道が伊勢で亡くなったとは、まだ聞いてはおらぬ、そなたが申したことはすべて夢中の妄想か、幻に怪異([現実にはありえないような、不思議な事実])を見たのではないか」と言って、本当のことだとは思いませんでした。その後三四日あって、伊勢より飛脚が下り、父上野入道(宗広)の遺言のこと、臨終の悪相([不吉な兆し])などを詳しく話しました、僧が話したところと一つも違いがないので本当のことだと、七々日([四十九日])の忌日に当たるごとに、一日経([一日のうちに書写し終えた経典])を書供養([供養])して、追孝の作善([仏縁を結ぶための善事を行うこと。造仏・造塔 ・写経など])を致しました。


続く
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by santalab | 2014-05-20 08:50 | 太平記 | Comments(0)

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