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「太平記」相摸次郎時行勅免の事(その2)

そもそも尊氏たかうぢがその人たる事ひとへに当家優如いうじよの厚恩に依りさふらひき。しかるに恩をになうて恩を忘れ、天をいただいて天を背けり。その大逆無道ぶだうはなはだしき事、世の憎むところ人の指指すところなり。ここを以つて当家の氏族ら、ことごとく敵を他に取らず。これ尊氏・直義ただよしらが為に、その恨みを散ぜん事を存ず。天鑑てんかん明らかに下情かじやうを照らされば、曲げて勅免をかうむつて、朝敵てうてき誅罰ちうばつの計略を廻らすべき由、綸旨りんしを成し下されば、よろしく官軍くわんぐんの義戦を助け、皇統の大化たいくわあふまうすべきにて候ふ。それ不義の父を誅せられて、忠功の子を召し仕はるる例あり。異国には趙盾てうとん、我がてうには義朝よしとも、その外泛々はんはんたるたぐひ勝計しようけいすべからず。用捨無偏、弛張ちちやう有時、明王みやうわうの選士徳なり。あに既往の罪を以つて、当然の理を棄てられ候はんや」と、伝奏てんそうしよくして委細にぞ奏聞したりける。主上しゆしやうよくよく聞こし召して、「犁牛りぎうの例へ、そのことわりしかなり。罰その罪に当たり、しやうその功に感ずるは善政のさいたり」とて、すなはち恩免の綸旨をぞ下されける。




そもそも尊氏(足利尊氏)が世に人としてあるのもひとえに当家(北条家)の優如([罪・非法など有責のことがらを大目にみること])の厚恩によるものでございます。しかるに恩がありながら恩を忘れ、天を戴いて天に背いておるのです。その大逆無道は度を超えて、世は憎み人は指指すところでございます。これをもってしても当家の氏族たちの、敵は尊氏以外にはございません。わたしは尊氏・直義(足利直義)に対して、この恨みを晴らしたいと思っているのでございます。天鑑(天子の御心)明らかに下情([一般の民衆の実情])を照らさば、曲げて勅免を蒙り、朝敵(尊氏)誅罰の計略を廻らせよと、綸旨が下されれば、力の限り官軍の義戦を助け、皇統を仰ぎ申す所存でございます。不義の父(北条高時たかとき。鎌倉幕府第十四代執権)を誅せられて、忠功の子を召し仕われる例はすでにございます。異国([中国])には趙盾(趙盾とその子趙武てうぶ)、我が朝には義朝(源義朝とその子頼朝)、その外泛々たる([軽々しい様])類は、枚挙にも及びません。用捨かたよりなく、弛張([寛大にすることと厳格にすること])時に従ってこそ、明王(不動明王)のような選士([兵士])を得ることができましょう。どうして既往の罪をもって、当然の理を棄てられるのですか」と、伝奏([上皇・天皇に近侍して奏聞・伝宣を担当した者])に付けて細かに奏聞しました。主上(南朝初代後醍醐天皇)はじっくりとお聞きになられて、「犁牛([役牛])の申すこと、たしかにその通りじゃの。罰は罪に対するもの、賞をその功に感ずるのが最上の善政ではないか」と申されて、すぐに恩免の綸旨を下されました。


続く


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by santalab | 2014-05-21 19:45 | 太平記 | Comments(0)

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