Santa Lab's Blog


「太平記」資朝俊基関東下向の事付御告文の事(その6)

やがて万里小路までのこうぢ大納言宣房のぶふさきやうを勅使として、この告文かうぶんを関東へ下さる。相摸入道、秋田あいたの城の介を以つて告文を請け取つて、すなはち披見せんとしけるを、二階堂にかいだう出羽ではの入道道蘊だううん、堅く諌めてまうしけるは、「天子武臣に対してぢきに告文を被下たる事、異国にも我が朝にもいまだその例をうけたまはらず。しかるを等閑なほざりに披見せられん事、冥見みやうけんに付いてその恐れあり。ただ文箱ふんばこを開かずして、勅使に返しまゐらせらるべきか」と、再往さいわう申しけるを、相摸入道、「何か苦しかるべき」とて、斎藤太郎左衛門利行としゆきに読み参らせさせられけるに、「叡心不偽処任天照覧」と被遊たるところを読みける時に、利行にはかに目くるめ鼻血はなぢたりければ、読み果てずして退出す。その日より喉の下に悪瘡あくさう出でて、七日なぬかが内に血を吐いて死にけり。時澆季げうきに及んで、道塗炭どたんに落ちぬと言へども、君臣くんしん上下の礼たがふ時は、さすが仏神ぶつじんの罰もありけりと、これを聞きける人毎に、怖ぢ恐れぬはなかりけり。




やがて万里小路大納言宣房卿(藤原宣房)を勅使として、この告文([自分の言動に虚偽のないことを、神仏に誓ったり、相手に表明したりするために書く文書])を関東(鎌倉)に下しました。相摸入道(北条高時たかとき)は、秋田城介(安達時顕ときあき)に告文を受け取らせて、すぐに見ようとしましたので、二階堂出羽入道道蘊(二階堂貞藤さだふじ)が、強く諌めて申すには、「天子(天皇)が武臣に対して直接告文を下されたことは、異国にも我が国にもまだその例を知りません。軽々しく披見すれば、冥見([人々の知らないところで、神仏が衆生を見守っていること])に知れて恐れとなりましょう。文箱を開かず、勅使に返されるのがよいでしょう」と、何度も申しましたが、相摸入道(北条高時)は、「何の不都合がある」と申して、斎藤太郎左衛門利行(斎藤利行)に読ませました、「叡心に偽りのないことを天の照覧に任せるところなり」と描かれたところを読んでいる時に、利行は急に目がくらみ鼻血を流したので、読み終わることなく御前から退出しました。利行その日から喉の下に悪瘡([たちの悪い腫物])ができて、七日のうちに血を吐いて死んでしまいました。時代は澆季([道徳が衰え、乱れた世])に及び、前途は塗炭([きわめて辛い境遇])に落ちるといえども、君臣が上下の礼に背く時には、さすがに仏神の罰があることと、これを聞く人は誰一人として、怖じ恐れない者はいませんでした。


続く
[PR]
by santalab | 2014-05-22 08:47 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」資朝俊基関東下向の事...      「太平記」資朝俊基関東下向の事... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
すみません、日本語の起源..
by 春日 at 21:17
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧