Santa Lab's Blog


「太平記」主上御夢の事付楠事(その3)

主上、さては今夜の夢の告げこれなりと思し召して、「やがてこれを召せ」と仰せ下されければ、藤房ふぢふさきやう勅をうけたまはつて、急ぎ楠木正成まさしげをぞ被召ける。勅使宣旨を帯して、楠木がたちへ行き向かつて、事の子細を述べられければ、正成弓矢取る身の面目、何事かこれに過ぎんと思ひければ、是非の思案にも及ばず、先づ忍びて笠置かさぎへぞ参じける。主上万里小路までのこうぢ中納言藤房の卿を以つて被仰けるは、「東夷征罰の事、正成を頼み思し召され子細あつて、勅使を被立ところに、時刻を不移馳せまゐでう、叡感不浅ところなり。そもそも天下草創さうさうの事、如何なるはかりごとを廻らしてか、勝つ事を一時に決して太平を四海に可被致、所存を不残可申」と勅定ちよくぢやうありければ、正成畏つてまうしけるは、「東夷近日の大逆だいぎやく、ただ天の責めを招き候ふうへは、衰乱のつひへに乗つて天誅を被致に、何の子細か候ふべき。ただし天下草創の功は、武略と智謀とに二つにて候ふ。もし勢を合はせて戦はば、六十余州のつはものを集めて武蔵相摸の両国りやうこくに対すとも、勝つ事を得難し。もし謀を以つて争はば、東夷の武力ぶりきただ利を砕き、かたきを破る内を不出。これあざむくに安うして、怖るるに足らぬところなり。合戦の習ひにて候へば、一旦の勝負をば必ずしも不可被御覧。正成一人いちにんいまだ生きてありと被聞召候はば、聖運遂に開かるべしと被思召候へ」と、頼もしげにまうして、正成は河内かはちかへりにけり。




主上(後醍醐天皇)は、さては今夜の夢の告げはこのことよと思われて、「すぐに楠木(楠木正成まさしげ)を呼べ」と命じられました、藤房卿(万里小路藤房)は勅を下されて、急ぎ楠木正成を呼びに遣らせました。勅使が宣旨を携え、楠木の館へ行き向かって、事の子細を述べると、正成は弓矢取る武士の面目、これに過ぎるものはないと思って、是非の思案にも及ばず、先ずは忍んで笠置山(現京都府相楽さうら郡笠置町にある山)に参りました。主上(後醍醐天皇)は万里小路中納言藤房卿をもって申されることは、「東夷征罰のこと、正成を頼みに思う訳あって、勅使を立てたが、時を移さず馳せ参ったこと、浅からずうれしく思っておるぞ。そもそも天下を改めようと思ってのこと、如何なる謀を廻らしてか、(鎌倉幕府に)勝つことを一時に決して太平を四海([国内])に致すことができるのか、思うところを余さず申せ」と勅定がありました、正成が畏り申すには、「東夷(鎌倉幕府)の近頃の大逆、天の責めを招いた上は、衰乱の機会に乗られて天誅を致されることに、意見はございません。ただし天下草創の成功のためには、武略と智謀の二つが必要でございます。もし勢を集めて戦ったならば、六十余州の兵を集めても武蔵相摸両国にさえも、勝つことはできないでしょう。もし謀を以って争えば、東夷の武力の利を砕き、強敵を破ることなど容易いことでございます。騙すことなど容易いこと、怖るに足らぬことでございます。合戦の習いでございますれば、一度で勝負がつくものではございません。ただしこの正成一人がまだ生きているとお聞きになられたならば、聖運は開かれたと思ってくださいませ」と、頼もしげに申して、正成は河内へ帰って行きました。


続く


[PR]
by santalab | 2014-05-23 13:52 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」持明院本院潜幸東寺事...      「太平記」主上御夢の事付楠事(... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
さらに付け加えますと、こ..
by 八島 守 at 09:03
おそらく「国民文庫」だと..
by santalab at 21:09
こんにちは。今日はSan..
by 佐藤綾乃 at 18:44
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧