播磨の明石の浦に着かせ給ふ。「ここをばいづくぞ」と御尋ねありければ、「明石の浦」と申しければ、「音に聞く処にこそ」とて、
都をば やみやみにこそ 出でしかど 今日は明石の 浦にきにけり
亀菊殿
月影は さこそ明石の 浦なれど 雲居の秋ぞ なほも恋しき
播磨国の明石の浦(現兵庫県明石市)に着きました。後鳥羽院が「ここはどこじゃ」と訊ねられたので、「明石の浦でございます」と申すと、「噂に聞く所じゃのう」とおっしゃって、
都を訳も分からぬままに出てきたが、今日は明石の浦に着いたのだなあ。
亀菊殿(後鳥羽院の妾。白拍子)は、
月の光の美しさは、さすがに名に聞く明石の浦ですが、それでも雲居([殿上])の秋がなおも恋しく思われるのです。
(
続く)