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「太平記」金崎東宮並将軍宮御隠の事(その3)

悲しいかな、未来無窮むぐうの生死出離しゆつりいづれの時ぞ。富貴栄花ふつきえいぐわの人に於いて、なほこの苦を遁れず。いはんや我ら篭鳥ろうてうの雲を恋ひ、涸魚かくぎよの水を求むる如くに成つて、聞くに付け見るに随ふ悲しみのうちに、待つ事もなき月日を送つて、日の積もるをも知らず。悪念にをかされんよりも、命を鴆毒の為にしじめて、後生善処ごしやうぜんしよの望みを達せんにはしかじ」と仰せられて、毎日法華経ほけきやう一部遊ばされ、念仏唱へさせ給ひて、この鴆毒をぞ聞こし召しける。将軍の宮これを御覧じて、「たれとても懸かる憂き世に心を留むべきにあらず、同じくは後生ごしやうまでも御供申さんこそ本意なれ」とて、諸共にこの毒薬を七日までぞ聞こし召しける。




悲しいことよ、未来無窮([無限])の生死出離([迷いを離れて解脱の境地に達すること])はいったいいつのことぞ。富貴栄花([身分が高く、富み栄えること])を得たところで、死の苦からは遁れられるものではない。申すまでもなくわたしたちはいはんや我らは篭鳥([かごに飼われている鳥])が雲を恋しく思い、涸魚([涸れた轍の魚])が水を求めているようなものではないか、聞くに付け見るに随い悲しみの中で、いつまで待つとも知れず月日を送って、日が積もることさえ知らないでいる。悪念に犯されるよりも、命を鴆毒([ちんと呼ばれる空想上の鳥の羽の毒])のために縮めて、後生善処([死後に善い世界に生まれることができること])の望みを叶えようではないか」と申されて、毎日法華経一部を写経し、念仏唱えられて、鴆毒を召し上がられました。将軍の宮(成良なりよし親王。南朝初代後醍醐天皇の皇子)はこれをご覧になられて、「誰がこれほどの憂き世に心を留めることでしょう、同じことならば後生までもお供申し上げることこそ本意です」と申して、いっしょにこの毒薬を七日間召し上がりました。


続く
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by santalab | 2014-05-27 08:26 | 太平記 | Comments(0)

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