俊基朝臣は殊更謀反の張本なれば、遠国に流すまでもあるべからず、近日に鎌倉中にて斬り奉るべしとぞ被定たる。この人多年の所願あつて、法華経を六百部自ら読誦し奉るが、今二百部残りけるを、六百部に満つるほどの命を被相待候ひて、その後ともかくも被成候へと、しきりに所望ありければ、げにもそれほどの大願を果たさせ奉らざらんも罪なりとて、今二百部の終ふるほどわづかの日数を待ち暮らす、命のほどこそ哀れなれ。
俊基朝臣(日野俊基)はとりわけ謀反の張本でしたので、遠国に流すまでもない、近日に鎌倉で斬るようにと決まりました。俊基には多年の所願があり、法華経を六百部を自ら読誦していましたが、あと二百部残っていたので、六百部になるまでの命を待って、その後斬られよと、しきりに所望したので、確かにそれほどの大願を果たさせないのも罪だと、あと二百部が終わるほどのわずかの日数を待つ、命のほどこそ哀れなものでした。
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続く)